公認心理師とは
日本で初めての心理職の国家資格である公認心理師についての概要、歴史、業務、働く領域、倫理、カリキュラム、受験資格、問題点などについて説明しています。全体像、アウトラインを知ることができるように要点のみを押さえています。
目次
1.公認心理師について
公認心理師とは日本で初めての心理に関する国家資格です。公認心理師は大学で心理学を修め、その後大学院で心理学を学ぶか、もしくは現場実習を2年以上行った上で、資格試験に合格すると得られます。公認心理師には心理的アセスメント、心理的支援、コンサルテーション、健康教育の4つの業務があり、教育、福祉、産業、司法、医療の5領域で働くこととなります。
2.公認心理師成立までの歴史
1960年代に入り、日本の各分野で心理として働いていた有志が日本臨床心理学会を設立させました。その後、心理の国家資格を作るために活動をしていたのですが、その資格の方向性やそもそも資格が必要なのかといった議論の末、日本心理臨床学会が1982年に設立されました。
その後、日本臨床心理士資格認定協会が設立され、1988年に臨床心理士第1号が誕生しました。臨床心理士は民間資格ですが、これを国家資格にしていく活動が始まりました。2005年には「臨床心理士及び医療心理師法案」といういわゆる2資格1法案が作成され、国会に提出されましたが、医師団体の反対や郵政解散によって結局は成立せずに終わりました。
そして、その後も水面下での協議や調整が続き、基礎心理学系を中心とした日本心理学諸学会連合と、臨床心理士を中心とした臨床心理職国家資格推進連絡協議会、さらに医療や医師を中心とした医療心理師国家資格制度推進協議会の3団体が共同して、2009年に1資格1法案という公認心理師の基となる基本見解が発表されました。
そして、2014年に公認心理師という名称に決定されました。その後作成された公認心理師法は国会での審議と決議を経て、2015年9月16日に交付され、2016年3月15日に施行されました。そして、2018年9月9日には第1回目の資格試験がありました。
3.公認心理師の業務
公認心理師の業務は主に以下の4つとなります。
- 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
- 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
1つ目はいわゆる心理的アセスメント、査定となります。2つ目は心理的支援で、カウンセリングや心理相談となるでしょう。3つ目は関係者に対するコンサルテーションであり、4つ目は公衆衛生、健康教育となります。文言は違いますが、臨床心理士の4つの業務の中から臨床研究を除外したものとほぼ同じとなります。
4.公認心理師が働く領域
公認心理師が働く領域は以下の5つとなります。
- 保健医療
- 教育
- 福祉
- 産業労働
- 司法矯正
臨床心理士の場合にはこれに加えて開業がありますが、公認心理師はこの開業は含まれていません。含まれていないだけで働いてはいけないという規定があるわけではありません。
5.公認心理師の特徴
(1)医師の指示
対象者に主治医がいる場合には、医師の指示に従わなくてはいけないとされています。またこれは医療機関外であっても、拘束力があります。この医師の指示の運用基準について以下の外部ページに書いているように厚労省から通知が出ています。
公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について
(2)連携
公認心理師は地域や他職種との連携や協働を重視しています。それと対照的に個人を対象にした個人カウンセリングや個人心理療法はやや軽視されている印象です。
6.公認心理師としての倫理
(1)信用失墜行為の禁止
公認心理師法40条で「公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。」とされています。これは法的違反のみならず、倫理違反や不品行なども慎まなければならないということです。
(2)秘密保持義務
公認心理師法41条で「正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。」としています。そして、この義務には「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則があります。
(3)資質向上の責務
公認心理師法43条で「公認心理師は、国民の心の健康を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため、第二条各号(4つの業務のこと)に掲げる行為に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。」とされています。ただし、更新制ではないため、この努力は各公認心理師に任されています。
ちなみに当オフィスは臨床心理士だけではなく、こうした公認心理師やその他対人援助職に対して研究や訓練の機会を提供しています。詳しくは教育分析やスーパービジョン等の研修と訓練をご覧ください。
7.公認心理師が大学・大学院で学ぶ科目
(1)大学で学ぶ科目
- 公認心理師の職責
- 心理学概論
- 臨床心理学概論
- 心理学研究法
- 心理学統計法
- 心理学実験
- 知覚・認知心理学
- 学習・言語心理学
- 感情・人格心理学
- 神経・生理心理学
- 社会・集団・家族心理学
- 発達心理学
- 障害者・障害児心理学
- 心理的アセスメント
- 心理学的支援法
- 健康・医療心理学
- 福祉心理学
- 教育・学校心理学
- 司法・犯罪心理学
- 産業・組織心理学
- 人体の構造と機能及び疾病
- 精神疾患とその治療
- 関係行政論
- 心理演習
- 心理実習
(2)大学院で学ぶ科目
- 保健医療分野に関する理論と支援の展開
- 福祉分野に関する理論と支援の展開
- 教育分野に関する理論と支援の展開
- 司法・犯罪分野に関する理論と支援の展開
- 産業・労働分野に関する理論と支援の展開
- 心理的アセスメントに関する理論と実践
- 心理支援に関する理論と実践
- 家族関係・集団・地域社会における心理支援に関する理論と実践
- 心の健康教育に関する理論と実践
- 心理実践実習
以上が、大学や大学院で学ぶべき科目となります。ちなみに、専修学校でも大学学部と同等となっており、同じ科目を習得することで公認心理師の受験資格が得られます。
8.公認心理師の受験資格
公認心理師を取るための基本的な資格は以下の2つあります。
- 4年制大学で必要な科目を履修し、その後大学院で必要な科目を履修
- 4年制大学で必要な科目を履修し、その後特定の機関で2年以上の実務経験を積む
また、現在は修了していますが、経過措置として、一定期間の間、上記2つ以外でも受験できた時期もありました。
- 施行前に大学院で必要な科目を履修
- 施行前に大学院に入学し、施行日以降に必要な科目を履修
- 施行前に4年制大学で必要な科目を履修し、施行後に大学院で必要な科目を履修
- 施行前に4年制大学で必要な科目を履修し、その後特定の機関で2年以上の実務経験を積む
- 実務経験が5年以上あり、現任者講習会を受講する
経過措置では上記の5つのルートがありました。ちなみに5つ目の現任者については、週1回以上で心理相談の業務についているものであり、その業務はボランティアでも可とされていました。現任者かどうかの判断は各人の職場に委ねられており、所属長が心理相談の業務についていると判断されれば、現任者となってしまうという事態も起こっていたようです。
9.公認心理師の資格試験
公認心理師の資格試験は年に1回です。試験料は28,700円と他の資格に比べると割高のようです。
試験範囲ですが、ブループリントといわれる出題基準に詳しく掲載されています。ブループリントについては以下の外部ページをご参照ください。
10.公認心理師の問題点
(1)医師の指示
公認心理師の行う業務は医行為ではない、とされつつも、医師の指示の元で業務にあたると法律ではされています。また、その指示の範囲は医療機関外であったとしても、効力を有するとされています。同じ施設内であれば意思疎通ができるので、指示関係を元に密な連携をしながらカウンセリングなどにとりくんでいけると思います。
しかし、別組織の、時には顔も合わせたことのない間柄でこうした意思疎通や密な連携の元でカウンセリングをおこなえるのかは疑問です。
(2)学歴
公認心理師は大学院を終了せずとも、学部や専修学校を卒業して2年の実務で受験することができます。海外における心理職の資格はほとんどが院卒以上となっていますが、それは研究というマインドをもつことの重要性が認識されているからです。
公認心理師は科学者-実践家モデルを採用しているにもかかわらず、研究マインドが養成されない学部や専修学校で資格が取れてしまうことの問題は大きいでしょう。
(3)研究の除外
上記の学歴とも関わってきますが、公認心理師の業務には臨床心理士のような臨床研究が含まれていません。必ずしも臨床研究を業務で行う必要はないのかもしれませんが、研究がないがしろにされることは心理職としては問題であると言えるでしょう。
(4)現任者の定義
現在は現任者の経過措置は修了していますが、公認心理師ができた初期には、5年間の心理業務に携わっている人を現任者とし、現任者講習会を受講することで受験することができるようになっていました。この現任者の定義はたった週1回、しかもボランティアでも可とするという非常に少ない経験でも公認心理師になれるというシステムでした。
こうしたことは質も著しい低下を招きかねません。また、そうした業務をしているかどうかの判断はその機関の長に委ねられています。機関の長の全てが心理業務に精通しているとは到底思えませんし、全く心理業務をしていなかったとしても、機関に公認心理師を抱えている方が有利と考えれば、患者さんとの雑談を心理業務と認定して、現任者として送り出すことも可能になってしまいます。
さらに、占い師やスピリチュアルないわゆるお店を開いている人も所属長は自身になるので、書類はどうとでもなります。つまり、心理学を学んだこともなく、心理支援などの業務をしてないものもスルーパスで現任者となり、受験することができてしまう、というところにこの問題はあります。
(5)カウンセリングの軽視
公認心理師は他職種や地域との連携を重視しています。そして、単独で何かを行うというよりはチームの一員としての役割が期待されています。そのことに重点が置かれていることもあり、個人カウンセリングや個人心理療法の役割はやや少なくなっています。
必携テキストや講習会テキストには各種の心理療法、カウンセリングの技法は掲載されていますが、特にそれらに特化しているというわけではないようです。インテンシブな心理療法やカウンセリングが必要なクライエントには対応しづらい資格となっているようです。