毒親とは:その特徴、対処、対策、逃げる方法について解説
虐待する親などの「毒親」のいる機能不全家族で育てられた場合、成人してからもトラウマが残り、アダルトチルドレンや愛着障害など、さまざまな精神疾患に至る可能性があります。
「うちの親は毒親?」と違和感を抱きはじめたら、親から逃げるタイミングかもしれません。毒親との逃げ方や対処、対策は事情によりさまざまで、困難を伴うことも多いため、相談機関を頼ることも考えてみましょう。
目次
1.毒親の特徴
毒親とはどのような親を指すのでしょうか。ここでは毒親の定義と種類、機能不全家族との関連について触れていきます。
(1)毒親とは
「毒親」という言葉は、スーザン・フォワードによる著書『毒になる親』(原題『Toxic Parents』)ではじめて使われたといわれています。スーザン・フォワードは、人の身に起こっている問題や悩みには親との因果関係があり、子どもの人生を支配して子どもに害悪を及ぼす親がいると指摘しました。
この子どもの心身を蝕んでいく親を、彼女は「毒親」と呼んだのです。
(2)毒親のタイプ
毒親といわれる親には4つのタイプがあるといわれます。
a.過干渉・統制(コントロール)型の親
子どもに関心を向けすぎる親のことで、毒親として最も多いタイプです。
たとえば、子どもの宿題を奪って親がやってしまったり、「○○大学を受けなさい」「将来は○○になりなさい」などと、何でも先回りして指示したり、厳しく見張ったりする親は過干渉・統制(コントロール)型です。
期待に応え続けた子どもは成長過程で、自分が何をしたいのか分からないと気づきます。すると「親のせいだ」と毒親を攻撃したり、ひきこもったり、成熟を回避して摂食障害に陥ったりすることがあります。
b.無視する(ネグレクトする)親
子どもに全く関心を向けない親のことです。
たとえば、ある子どもには全く目を向けずに他のきょうだいばかり大切にする、親の都合のいいときには子どもを味方につけようとするが子どもの求めには応じない、といった親のことです。深刻な場合は、日常的な子どもの世話まで放棄するケースもあります。
なお、仕事依存で子どもに無関心な父親と過干渉・統制(コントロール)型の母親、という組み合わせはしばしばみられます。
c.ケダモノのような親
子どもの心身の健康、ときには生命まで脅かすほどの行動をする親のことです。
子どもへの性的虐待、殴る蹴るの暴力といった身体的虐待、罵声を浴びせるなどの心理的虐待、ベランダへ放り出す、密室に長時間閉じ込める、といった異常なしつけ、などといった振る舞いをする親をいいます。
d.病気の親
病気、特に精神障害を持つ親のことです。たとえば、双極性障害や境界性パーソナリティ障害などを抱える親は、子どもへの関わり方が極端で不安定になることがあります。
こういったケースでは、子どもの保護と支援はもちろん、親自身へも支援や保護が必要な場合が多いでしょう。
(3)毒親と機能不全家族
毒親のいる家族は、機能不全家族の可能性があります。機能不全家族とは、親の依存症や病気、親から子への虐待などにより、健康な家族の機能を果たしていない家族のことです。
機能不全家族には、以下のような特徴があるといわれます。
- 家族内に非合理なルールが維持されている
- 子どもが親のケアをする(親子関係の逆転)
- 家族で共有された秘密がある
- 家族メンバーの間の葛藤はないものとされる
- 家族に他人が入ることに抵抗し、メンバーは家族から出られない
- 家族メンバーにプライバシーがない(個人間の境界が曖昧)
機能不全家族のもとで育てられた子どもは無意識的に、体験をないものにする(否認)、無関心のように振る舞う(回避)、自分や親の良い面と悪い面を分ける(分裂)といった方法で心を守り、親との関係の中で心に傷を負いながら育ちます。
そうして大人になった人を「アダルトチルドレン」と呼ぶことがあります。
機能不全家族についての詳細は以下のページをご覧ください。
(4)毒親と「ふつうの親」の違い
毒親と、毒親でない「ふつうの親」の違いや、過干渉や過保護と「親の愛情」の違いはどう見分けられるのでしょうか。
どちらも、はっきりとした線引きは難しいでしょう。子どもへの過保護はある程度の年齢までは必要ともいえますし、暴力を振るう親には「いけないとわかっていてもつい手が出てしまう」といった不器用さがうかがえる場合もあります。
ただ、親子関係が共依存関係にある場合は問題です。共依存とは、どちらかがどちらかに一方的に依存させて相手のもつ能力を無視する関係性をいいます。
一方的にならず、依存したりされたりと状況に応じて役割を柔軟に変えられる関係なら健康な関係性といえるでしょう。
共依存については以下のページに詳細が書かれています。
2.毒親に育てられた人
幼少期からの毒親との関係は、大人になってからの生き方にも影響します。ここでは毒親に育てられた影響としてアダルトチルドレンと、愛着障害などの精神疾患に触れます。
(1)アダルトチルドレン
アダルトチルドレンは、アルコール依存など嗜癖を持つ親、虐待する親、機能不全家族のもとで育ち、なんらかのトラウマを負ったと考えられる成人のことです。
アダルトチルドレンは幼少期から「親の機嫌を気にする子」「他人の世話を焼こうとする大人びた子ども」である場合が多く、他人の思いを取り入れて生きる共依存の特徴をもちます。
思春期以降のアダルトチルドレンには以下のような特徴がみられます。
- 自分の感情や欲求がわからない
- 周囲の評価に敏感
- 周囲の期待に沿う「良い子」として振る舞う
- 自己評価の低さから尊大であったり、失敗をおそれるあまり何もしないままであったりする
- しがみつきを愛情と混同する
- 被害妄想に陥りやすい
- 将来なんかないという感覚
- わけもなく絶望感や希死念慮におそわれる
- 急に怒りが噴き出す
アダルトチルドレンの当事者は医療に期待せずに飲酒や非合法薬の摂取、ギャンブルなどへの依存に救いを求めている場合も多いといわれますが、不適応的な症状が生じた場合には治療の対象となります。
アダルトチルドレンについては以下のページで解説しています。
(2)愛着障害などの精神疾患
「毒親」の影響が想定される子どもの障害に、愛着障害があります。「毒親」による虐待など、極端な養育不全により子どもの示す症状が一定の基準を満たした場合に診断されます。
愛着障害の人は、苦痛が生じたときに、養育者に対しめったに安らぎを求めずに引きこもったような反応を示したり(反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害)、見知らぬ大人にもためらいなく近づき、過度に馴れ馴れしたり(脱抑制型対人交流障害)します。
養育者との安定した愛着(アタッチメント)は、不安が生じるときも子どもの心を支える拠りどころとなります。虐待などの極端な養育を受けた場合は愛着(アタッチメント)が不安定となるだけでなく、親との関係そのものがトラウマとなるため問題は深刻です。
毒親との関係の影響はほかにも、さまざまな精神障害に及びます。摂食障害や、アルコールやギャンブルなどへの依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社交不安障害、うつ病、窃盗、脱毛などの症状や精神障害、精神疾患として現れる場合もあります。
3.毒親から逃げる方法
毒親から逃げるためには、どうしたら良いのでしょうか。「うちの親は毒親では?」と親に違和感を抱き始めたら、まずは物理的・心理的に距離を取ることが有効です。ここでは物理的・心理的に距離を取る際のポイントをいくつかお伝えします。
自分ではどうしたら良いかわからなくなったら、第三者を頼る手も考えてみましょう。
(1)1人暮らしをする
実家などで毒親と同居している場合は、一人暮らしを検討してみると良いでしょう。
いきなり家を出てしまう手もありますが、まずは顔を合わせる頻度を減らす、生活時間をずらす、といったことから始めても良いかもしれません。就業していない場合、まずは固定収入を得られる仕事を探して経済的な自立をはかる必要もあるかもしれません。
親から物理的にどの程度離れるかについては、親の影響の及ぶ範囲によります。親の活動範囲や交友関係などを踏まえて検討しましょう。一人暮らしを始めて物理的、また経済的にも自立をはかることは、毒親との関係から抜け出すきっかけとして有効です。
ただし、虐待などで心身の安全を脅かす「毒親」からは生き延びることが最優先です。この場合はまずは第三者に相談し、早めに逃げる手立てを考えましょう。
(2)連絡を絶つ
毒親から離れられたら、連絡を絶つ方法も検討しましょう。
親からの電話は取らない、親からのメッセージは無視する、といった方法はもちろん、連絡先を変えて親には知らせない、自分の名義で携帯電話を契約し直す、といった方法もあります。さらには、SNSなどで居場所を辿られないような注意も必要かもしれません。
(3)信頼できる人を見つける
親以外に、信頼できる人を見つけることも大切です。
信頼できる人には先輩や仲間、パートナーが適しますが、カウンセラーや宗教者などの援助者もその役割を果たします。不安が生じてもいざとなれば守ってくれると思える人がいれば、その存在を頼りに安心を取り戻すことができます。
また、信頼できる人のもとで自分を素直に表現できれば、幼少期に満たされなかった経験を取り戻せるかもしれません。否定的な面も含めた体験を語り、受け止めてもらえると心にゆとりが生まれ、体験の肯定的な側面が見えてくる場合もあります。
(4)今の生活を充実させる
今の生活を充実させることも、毒親の影響を絶つ良い方法です。まずは好きなことや得意なことなど、気軽にできることから始めることをおすすめします。それが周囲の人のためにもなることであればなお良いでしょう。
仕事を通じて役割や責任を持つことも有効です。役割や責任を果たそうと努めるうちに周囲の人との関係が安定する可能性があります。また職業の役割を中心とした社会的関係では割り切った付き合いができるため、親密さへの心理的負担も軽くなります。
こうした過程で「自分にもできることがある」と自己肯定感を回復したり、人との親密な関係を結びやすくなったりすることが期待できます。「自分は自分だ」と心から思えれば、親に対しても意見しやすくなるでしょう。
(5)第三者に助けを求める
毒親から物理的・心理的に離れたくてもどうしたらいいかわからない場合や自力では困難な場合は、第三者に助けを求めることも考えてみましょう。
よりそいホットラインなどでの電話相談や、各自治体の相談窓口も活用できますし、カウンセリングでも相談に対応しています。第三者の視点が加わることで、問題解決の道が見つかりやすくなるかもしれません。
4.毒親への対処と対策
「うちの親は毒親では?」と違和感を抱いたら、まずは離れることを考えてみましょう。それでもなんとか付き合える方法を模索したいときは、今までの関係に何らかの変化が必要と考えられます。ここでは、毒親との関係を付き合いやすいものに変える方法をいくつかお伝えします。
(1)毒親を知り、対策を打つ
毒親のあり方を変えることは残念ながら難しい場合が多いです。毒親を変えずにより付き合いやすくするひとつの方法は、毒親の特性に応じた対策を打つことです。
たとえば精神疾患の親であれば、薬が効くまでは刺激しない、興奮したら落ち着くまではその場を離れるなど、親との距離感をコントロールする対応があります。親の特性を知り、親の行動への予測性を高めれば、不意の傷つきを避けられる可能性は高まります。
ただ、この対策は親に合わせたもののため、子ども側の心理的負担は依然として大きいかもしれません。距離を取ろうとすることで親から説得されてしまうおそれもあります。
(2)親子関係を改善する
親と付き合いやすくするには、親子の関係を改善する方法もあります。親子関係を変化させるのは当事者だけでは難しいため、第三者を介すことが望ましいでしょう。
カウンセリングでは、カウンセラーといっしょに親との関係を変える作戦を練ることもできますし、親と一緒に親子カウンセリングを受けることもできます。その過程で、子どもにばかり関心を向けていた親が自分自身の生き方を見つめ始める、子どもに後悔や謝罪を表す、といった動きがみられることもあります。
(3)内なる親との関係を改善する
「毒親」が極端で変化が見込めない場合や、親がすでに亡くなっている場合、現実的な親子関係を変えることはできません。それでも、「内なる親」との関係は変えられる可能性があります。
親が亡くなっても親の影に怯えている、親から離れてからもずっと自分を責め続けてしまう、といった場合、「内なる親」の声が強すぎるのかもしれません。
「内なる親」の大部分は親に影響されてつくられたものではありますが、いまや現実の親とは異なるものです。今の自分が闘っているのは親ではなく、自分自身の心の声だともいえます。
この心の声は自分自身のものなので、今からでも変えることができます。
「内なる親」との関係を変えるには、カウンセリングも役立ちます。カウンセリングでは、今の生きづらさにも影響を及ぼしている否定的な心の声をやわらげ、楽に生きられるような支援を行っています。
5.毒親・愛着障害のトピックについて
毒親・愛着障害についてのいくつかのトピックです。さらに詳細に知りたい方は以下をご覧ください。
6.(株)心理オフィスKで相談する・カウンセリングを受ける
毒親について、毒親のタイプ、毒親に育てられたことによる影響、そして毒親から逃げる方法、毒親と付き合う方法を説明しました。「毒親かも?」と自分の親に違和感を抱き始めたら、親から離れるタイミングかもしれません。毒親から逃げる方法や付き合い方は事情よりさまざまで、困難を伴う場合も多いため、第三者を頼ることも考えましょう。援助の一手として、カウンセリングもぜひご検討ください。
(株)心理オフィスKでは毒親についての相談やカウンセリングを受けております。希望される方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
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