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自主シンポ「開業臨床のやりがいと楽しみ」の報告

日本心理臨床学会第37回に参加し、その最終日に自主シンポジウムを開催しました。テーマは「開業臨床のやりがいと楽しみ」です。そこでの発表や討論をまとめました。

1.はじめに

リラクゼーションする女性

日本心理臨床学会の全日程の最後のトリを飾ったのが我々の自主シンポ「開業臨床のやりがいと楽しさ」でした。フロアには27名の参加者がおり、学会全体の参加者が少ない中では上々の成果かと思います。

「開業臨床のやりがいと楽しみ」について、臨床心理士が仕事にやりがいや楽しみを持つのは単に自己満足でも、クライエントを搾取することでもありません。適度なモチベーションを持つことこそが、より良いセラピーをクライエントに提供できると考えます。

開業は困難さや垣根の高さに目がいってしまうことが多いようです。確かに組織に守られず、自分で責任を負わねばならないので、リスクマネジメントは必須です。それは当たり前の前提として、開業の肯定的な側面をクローズアップし、より多くの臨床心理士が開業という生き方を選んで欲しいという願いがあります。

2.3人の発表

笑っている二人の女性

まず最初は古民家での開業をされている先生の発表で、その穏やかな佇まいは古民家と非常にマッチしているように思いました。さらに、そうしたことに関心が惹かれるクライエントも多いだろうし、そこにクリエイティブな営みが繰り広げられているのだろうと空想しました。

次の発表者は元々は占い師で、後に臨床心理士を取得し、開業している、という異色な方です。占いとカウンセリングの境界について繊細に意識しながら開業に取り組まれている様子が伺えました。

3人目の発表者は京都市北部で開業されている先生で、開業よりも前にクライエントを持たざるを得なくなったので、大慌てで、空き家となっていた実家の改装をしてクライエントを迎えたというエピソードが印象的でした。

開業という営みに入る過程は人それぞれでしょうが、そうした外的、内的なタイミングが後押しし、後から振り返れば、あのタイミングが最適だったと思えるようです。

3.北川の発表

読書をする男性

最後の発表は私、北川です。開業で出会うクライエントは医療や教育、福祉、産業で出会うクライエントよりも、生き方そのものの見直しというニーズを抱えている人が多いようです。その他にも臨床心理士が自身の訓練のため、教育分析や個人分析、スーパービジョンを求めてくることが多いです。

そのため、症状解消の治療や問題解決ではない手持ちが必要になり、今のところは、それこそは精神分析的セラピーであろうと思います。そして、いくつか条件はありますが、他職種や同業者との連携や協働を気にかけずに純粋にセラピーに没頭できる、という面白みはあります。

指定討論では、まさかの事例からの問いというアクロバットな展開に度肝が抜かれましたが、開業という密閉空間の中でこそ、クリエイティブな過程が進展する、ということが論じられたかと思います。

4.開業の魅力とは

電話を掛ける男性

総じて、開業をしている我々の共通項としては以下の3つがあるようです。

  1. 孤独を楽しめること
  2. 濃密な治療関係を主軸におけること
  3. 人との連携や協力が正直面倒臭いと感じていること

などがあるようです。あと、大変なことはありつつ、開業を辞めたいと思ったことは全くなく、一生続けたいと心底思っているのは印象的です。

シンポの最後35分はフロアとの討論で、沢山の意見が次々と出て、熱い話がたくさんできたと思います。特に若手の方がこれから開業を志向する上での道標となるようなことになれていればと思います。

開業のやりがいとは違いますが、今後開業をしていく上でのネットワークのことや、医師の指示問題のことなど、課題はもちろんあり、そうした観点の発言があったことは、意義深いと思います。開業の不安として、しっかり取り組む必要はありそうです。

参加者アンケートにも多数のご意見を書いてくださっており、嬉しく思いました。こうしたシンポだからでしょうが、今後開業をしたい、開業に興味ある、という人がほとんどで、そうした臨床心理士が実際に開業するというアクションに繋がれば良いのに、と思います。

5.開業という職業モデル

二人の女性が打ち合わせ

医師などはある程度の経験を積むと開業することが割と自然に出てくることです。しかし、臨床心理士の場合には開業するという生き方はそれほど多くはありません。5年に一度の臨床心理士動向調査でも開業している人は数%程度だったかと思います。

公認心理師が出来、おそらくは病院や学校、教育センターなどの公的な機関では公認心理師が席巻していくことになるでしょう。その時、自然に開業という生き方が職業モデルとして確立し、開業臨床を生業とする臨床心理士のボリュームが反対に増えていく可能性もあるのではないかと思います。

もしくは、開業臨床に臨床心理士のアイデンティティが大きな割合を占めるようになるかもしれません。開業臨床心理士の互助会や支え合いグループなどが自然発生的に生まれてくると良いかもしれません。

そして、そうした時、開業臨床心理士が社会という中で生き残ることが必要となります。単純にクライエントさんが来ないと、どれだけ偉そうなことを言っていても経営が成り立たなくなってしまいます。これは非常にシビアであります。

6.開業におけるマーケティング

横を見る男性

多かれ少なかれマーケティングを意識せざるを得なくなるでしょう。臨床心理士ではない、いわゆる市井の心理カウンセラーはたくさんおり、そうした方々ははっきりとビジネスとして集客し、広告を打ち出し、クライエントを集めています。

そうした市井の心理カウンセラーという商売敵と渡り合っていくことが臨床心理士には求められますが、多くの臨床心理士は内向的なので、一歩も二歩も引いてしまいます。活動的になれ、ということではありませんが、今後はマーケティングをしていくことは必須でしょう。

7.来年の自主シンポジウムの企画

こうした自主シンポの結果や問題意識から、来年は開業のどういうことをしようかと思案してますが、開業臨床心理士のマーケティングの方法や、公認心理師として開業することや、開業臨床の始め方、などができそうかなと思っています。

今後、もう少しアイデアを練り上げていきたいと思います。長々となりましたが、自主シンポ「開業臨床のやりがいと楽しみ」に来てくださった方、本当にありがとうございました。

8.その後に自主シンポを開催

きょうだいと夕日

追記です。その後、2019年に日本心理臨床学会38回大会で「開業臨床と公認心理師」という自主シンポジウムを開催しました。以下のページでその様子を報告しています。ご興味あればご覧ください。