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カウンセリングにおける傾聴と愛情にまつわるファンタジー

愛情という共謀

カウンセリングをする上で話を聴くこと、つまり傾聴は基本的な営みです。そして、そうしたことをクライエントが求めることは不自然なことではありません。しかし、そうしたことが第一になってしまうことによる弊害もあります。そうしたことについてここでは書いていきます。

1.カウンセリング関係に持ち込まれるもの

精神科医や臨床心理士、カウンセラーに話を聴いてもらいたいという期待を抱くクライエントさんは多いと思います。これまで苦しい状況を何とか生き延びてきたため、そうした苦しみを共感してもらいたいというのは想像に難くありません。

そして、さらに言うと、そこには愛情によって癒されるという無意識的なファンタジーはあるのだろうと思います。それに加えて、クライエントさんの期待に呼応するようにカウンセラーにも自身の愛情でクライエントさんを癒すという、これまた無意識的なファンタジーがあったりします。

2.期待という共謀関係

部分的にそうした要素がカウンセラーとクライエントさんとの間に陽性の関係を築き、部分的に治療的に作用することは否定しません。しかし、それらは多くの場合、両者の失われてしまった過去の養育者との愛情関係を万能的に再生させ、互いが互いで寂しさを埋めあわせようとする共謀関係になってしまっているところはあるかもしれません。

転移性恋愛については以下のページが参考になります。

転移性恋愛についての観察
フロイトが1915年に執筆した論文「転移性恋愛についての観察」の要約と解説です。ここでフロイトはセラピストに向ける患者の恋愛は転移であり、抵抗であるとしています。しかし一方で、その恋愛には本物性がないとは言えないともしています。

こうした愛情の供給は、容易に性愛との未分化な混同を孕んでしまう危険性があるようにも思います。愛情に対する理想化は多かれ少なかれ我々のファンタジーに巣食っているのでしょう。

もちろん、一番合理的に考えると、話を聞くことがカウンセリングの第一ではなく、治すことがカウンセリングの第一となります。極端にいうと、話を聴かなくても治れば良いといえます。ただ、そんなことをいって、聴いて欲しいという期待を頭から否定をしても仕方がありません。治療上、カウンセリング上、必要な信頼関係も築けなくなってしまいますから。

3.カウンセリングの本来の目的

肝要なのは、聴いて欲しいという期待や、それによって愛情を得られるのではないかというファンタジーを理解しつつ、ある程度は充足してもらいつつ、本来の目的である治すということを目指して、如何に見立て、治療計画を立てるのかが大事でしょう。聴いてあげることはしても治せないのであればカウンセラーとしての責務を果たせていないことになります。

また、同時にカウンセラーの中に愛情を与えることで治すという救済者願望を行動化することも、否認することもせず、そうした逆転移があることを率直に認めつつ、カウンセリングや治療に勤しむということが必要でしょう。しかし、そうはいっても、逆転移を率直に認めて、ということがなかなか難しいのは臨床をしている人なら同意してくれると思います。特に大規模な投影同一化に晒されている時には、多分に心のスペースが失われ、PSモードで機能してしまっていることが多いからです。

また、カウンセラーに象徴と象徴等価物を腑分けできない素質があるのであれば、尚更困難であることが予想されます。言い換えるから、空想なのか現実なのかが分からなくなる、もしくは混同してしまう、ということでしょう。

こうした場合には、おそらく自力での解決やワークスルーを目指すのではなく、スーパーヴィジョンを受けることが必要になるでしょう。もしくは、カウンセラー自身の素質や過去の葛藤の課題があるのであれば、教育分析や個人分析、セラピーをカウンセラー自身が受けることも大切でしょう。

【執筆者情報】

  • 北川 清一郎
  • 資格:臨床心理士、公認心理師、日本精神分析学会認定心理療法士など
  • 所属学会:日本心理臨床学会、日本精神分析学会、日本EMDR学会、日本臨床心理士会、日本公認心理師協会など
  • 役職:神奈川県臨床心理士会代議員、日本臨床心理士会委員などを歴任
  • 経歴:精神科や心療内科、教育センター、児童相談所、就労支援施設などでの臨床経験は約20年になる。また、臨床心理系の大学などでの非常勤講師を歴任。執筆した論文は多数。メディアや雑誌での出演経験も豊富。
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