空想の性質と機能

子どもの空想

スーザン・アイザックスが1948年に書いた「空想の性質と機能」についての要約と解説。アイザックスやクライン派にとっては空想は乳児の最早期から活発に作動している心的機能である。精神分析状況においても常に存在し、それは転移と分かちがたく結びついている。本論文はこうした基礎理論の考えを提起している。
スーザン・アイザックスの写真

図1 スーザン・アイザックスの写真

1.空想の性質と機能(1948)の要約

(1)空想とは

a.空想について

「空想」とは、無意識的空想(phantasy)を指し、意識的空想(fantasy)とは異なる。

Phantasyには、「空想」「幻想」「ファンタジー」と訳語が存在する。「幻想」という言葉は、非現実感を強調するため、心的現実を重要視し取り扱う精神分析では誤解を生じやすい。そのため、「空想」という訳語が適当とされている。<無意識の内容>

Fantasyは、日常用語と同じ意味を持つ。すなわち、意識的な白昼夢やフィクションなどを意味する。<意識の内容>

メラニー・クラインの子ども分析によって、無意識的空想の概念が精神分析において重要性を増してきた。この概念に関連したあらゆる事実を統合するために、空想の概念を明確にし、曖昧さをなくしていくことが求められている。

b.空想を明らかにする方法

  • 精神分析の方法
  • 患者の夢や連想の文脈として見ていくこと
  • 「転移」状況を理解すること

「転移」を理解するということは、患者と精神分析家との関係を理解することである。この関係は、患者の心の中で見たり感じたりしているものとしての精神分析家のパーソナリティや態度、意図、また外見の特徴や性別までもが患者の内的世界の変化に伴って変化していく。

「転移」という現象そのものが、空想が存在し、また活動していることの一つの立派な証拠である。「転移」の些細な変化から、ある状況で作動している空想の特徴を解読できるし、空想が精神過程へ及ぼしている影響を理解できる。

→こころの中で起こっていることを知るための主要な手段

(2)空想の性質と機能

a.無意識の内容物としての空想

空想は無意識の内容物である。空想は、その時の心の中で優勢な衝迫や感情(願望、恐怖、不安、勝利、愛、悲しみ…)の内容を表している。

全ての精神過程は本能欲求から直接に発生したり、外的刺激への反応として生じる。フロイトは、「エスは身体的な過程とどこかで直接接しており、そこから本能欲求を引き継ぐとともに、身体過程に精神的表現を与えると思われる」と述べた。つまり、無意識の空想は身体に関するものであり、対象に向けては本能目的を表している。

無意識の空想はリビドー本能、もしくは破壊本能の表象である。発達早期から空想は複雑化し、願望充足や不安を表す。たとえば、乳児が母親の乳房に対して欲望を表す際に、その欲望が不安によってとても強いものだとすると、「お母さんを全部食べてしまいたい」と感じるかもしれない。また、母親を失うことを避けるために、もしくは快感を得るために、「お母さんを自分の中に入れたままでいたい」と感じるかもしれない。欲求不満を感じている時は、攻撃的な性質を帯び、「乳房を噛み切りたい。お母さんをばらばらに引き裂きたい」ということを体験するかもしれない。尿道の衝動が優勢な時は、「お母さんを溺れさせたり、焼き尽くしたりしたい」と感じるかもしれない。

b.空想の基盤

  • 幻覚的な願望充足
  • 一次的取り入れ
  • 投影

幻覚は、本能的な緊張が強くない時に生じる。幼児の場合、口唇的な衝動が優勢であることから、幻覚の対象は乳首で、それから乳房、そして後に一人のまとまった人間としての母親へと移っていく。乳児が乳首や乳房を幻覚しているのは、“楽しむため”である。

フロイトは、「出現してきた対象は、それが快感の源泉である限り、自我によってそのなかに吸収される、すなわち『取り入れられる』のである。またその一方で、自分の内部で不快を生み出すものは全て、外界に押し出す(=『投影』)のである」と述べた。

欲求不満によって、さらなる強い欲望が引き起こされ、満足の源泉としての乳房全部を自分の中に取り入れて保持したい(=体内化)、という願望にもなる。

c.空想の性質

外的体験を通じて、空想の表現力は豊かになっていく。しかし、空想の存在自体は外的体験(=事実)に依拠しているわけではない。たとえば、幼児が欲求不満を体験した時、それは単に身体的な出来事としてではなく精神的な過程(=空想)としても体験される。この時、この空想は、「自分に苦痛や喪失を与える悪い母親がいる」ということを表すかもしれない。

空想は言語で表現される。しかし、空想は言葉(=意識的なこころ)に依拠するものではなく、無意識的な感情に属する。そして、最早期の空想は感覚的な体験であり、身体的な感覚や感情が織り込まれている。すなわち、空想は外的世界に関する知識に起源を持つのではなく、本能衝動の中に端を発する。発達段階が進むにつれて、空想は形のあるイメージとして表れていく。

d.空想による影響

空想は精神の働きであり、内的世界だけでなく、身体の発達や行動においても影響を与えている。

  • ヒステリー性の転換症状:消化管の障害、頭痛、月経不順
  • パーソナリティ:身体の姿勢、歩き方、表情、字の書き方、抑うつ的か高揚しているか
  • 神経症症状:摂食や排泄の障害、恐怖症、チック、癇癪

<空想の表現>

e.本能と空想とメカニズムの関係

図2 本能と空想とメカニズムの関係

図2 本能と空想とメカニズムの関係

 自我の機能は、特定の空想と関連している。

Ex.【否認(=盲点化)】のメカニズム

身体衝動

「肛門からおならや大便として外に出ていくのはよいが、“苦痛な事実(=認めたくないこと)”が言葉として口から出ていってはならない」

空想

「“苦痛な事実”を話さなければ、それは自分の中に無い」「“苦痛な事実”が自分の中にあることを、他人に知られないようにすることができる」

知覚した考え

「私が見ていないものを、私は信じる必要はない」「私が見ていないものは他の人も見ていないし、だからそれは現実に存在していない」

無意識的な思考と現実的な思考は、異なる精神過程である。精神過程では、空想的な満足の失敗が外界への適応を導くと考えられている。つまり、無意識的空想が働かなければ、現実的思考は作動することはない。

無意識の空想は、生涯を通して絶え間なく影響を及ぼす。それは、健常な人でも神経症の人でも同じである。健常な人と神経症の人の違いは、優勢な空想の特徴、その空想に関係した欲望や不安である。そして、空想間の相互作用や外界現実との相互作用に違いがある。

(3)感想・疑問点

本能と空想のメカニズムを図で表した時、心理学的な話というよりも認知神経科学的な情報処理の過程を見ているようで面白かった。面白いというのは、【空想】の役割が、【エス】から入力された一時的な情報(=衝動、身体的な感覚や感情)を処理する変換点のように見え、またエスの情動が自我に受け入れられやすい形に変化されるという意味で、空想が汚水処理施設におけるろ過装置にも見えたからである。エスから入力される情報を処理する空想の機能がうまく働かない(ろ過できない)と、自我を圧迫し、様々な症状として表れると考えられた。

疑問点としては、「無意識的な空想」と「意識的な空想」との違いである。つまり、意識的空想は、エスといかに関連し、表現されるのかに疑問が残った。また、「夢」も空想の一つの表現型であると述べられていたが、夢の内容を認識(意識)できている点で、それらは「意識的な空想」として扱うのだろうか。皆さんで議論したいです。

2.空想の性質と機能(1948)の解説

(1)アイザックスの生い立ち

アイザックスは1885年3月24日にイギリスのランカシャーで出生。少なくとも10人の兄弟姉妹がいたようである。兄の病気や死、妹の出生などにより、母親からの愛情があったり無くなったりしたようである。思春期には非常に反抗的になり、そのことで学校を退学させられることとなった。そのことをきっかけに婦人参政権などの社会主義思想に染まるようになり、活動家となっていった。その後、マンチェスター大学に進学することとなり、教育学を学んだ。大学卒業後には仕事をしながら研究も行い、27歳の時に「子どもの書字困難」というテーマで学位を取得した。その後、大学で教鞭を取るようになり、教育学や心理学を教えるようになった。29歳の時に同じ職場の植物学講師であるウィリアム・ブリアイーと結婚。36歳の時には「心理学入門」という書籍を出版。その時期に精神分析にも興味を持つようになり、O,ランクやフリューゲルの精神分析を受けるようになった。また同時期に勤務先の生徒である10歳年下のネイサン・アイザックスと不倫関係になり、駆け落ちした。そして、ウィリアムとの離婚が成立し、ネイサンと再婚した。37歳の時である。また、その後、精神分析家としての訓練も受け、1923年、38歳で精神分析家の資格を取得した。

精神分析家となってから、1924年にはモルティング・ハウス学校の校長となった。この学校は進歩的なところで、児童に自由に生活させるようなところであった。この中での児童との観察や関りが「幼いこどもの知性と成長」や「幼い子どもの社会的発達」という書籍としてまとめられた。この学校は3年で退職となり、その後、学校自体が閉校となっている。1927年からリビエールの精神分析を受けるようになり、徐々にクライン派の中核的なメンバーとなっていった。1935年にはガンを患い、放射線治療を行いながら、精力的に講演や臨床、教育を行っていた。また、1941年頃からはアンナ・フロイト-クライン論争が始まり、アイザックスはクライン派の代表的な論客として議論を行っていた。その中で、1943年に本論文の発表を行った。その後、紳士淑女協定が結ばれ、論争は落ち着いていった。アイザックスはその後も戦争孤児のケアなども行っていた。そして、1948年10月12日に63歳で死去した。アイザックスのスーパーヴァイジーとして、ローゼンフェルドやシーガルなどがいる。

(2)フロイトの時代の空想理解

  • 覚醒時に語る白昼夢、想像、ロマンスなど
  • 夢分析(1900)「ヒステリー症状は実際の記憶にではなく、記憶にもとづいてうちたてられた幻想に固着している」→内的欲動説
  • 多くの人間がもつ共通の空想(誕生、妊娠、原光景、近親姦、去勢、家族ロマンスなど)→原幻想

(3)アイザックスをはじめとするクライン派の空想理解

  • 空想は最早期からある。
  • 空想は身体由来である。
  • 覚醒時の想像というものではなく、行動や身体的なものとしてあらわれる。
  • ビオン:前概念と体験によって思考が生まれる。前概念と空想の近しい関係。

フェレンツィ:チックは自体愛的な行為=単なる心的エネルギーの放出

クライン:チックにおいても象徴的意味=空想がみられる

空想は欲動の表象だけではなく、不安に対する防衛行為を表象するために練り上げられる(シーガル 1964)

(4)クライン派の空想理論に対する反論

  • 1歳以下の乳児の空想を推論することの方法論的な不備。
  • 一次ナルシシズムのため、意味を伴わない快感があるのみ。
  • 乳児にしては空想が洗練されすぎている。退行による影響を受けている。「遡及的な複雑化」
  • 空想の中の、否定や時間概念、諸衝動の相互作用は二次過程の性質を持っている。
  • 客観的観察と主観的体験が融合してしまっている。
  • 空想が発達の基礎となり、たえず作動しているとするのであれば、退行概念を一変させてしまう。

(5)文献

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