精神分析の終結のための基準について

これでお別れね

メラニー・クラインの1950年の論文「精神分析の終結のための基準について」の要約と解説です。精神分析の終了・中断・終結について抑うつポジションの達成の観点からまとめています。

1.精神分析の終結のための基準について(1950)の要約

(1)分離の痛み

精神分析の終結の時期には、患者の幼児期の分離体験が再現されることがしばしばみられます。分離体験は最も葛藤的なことであるため、精神分析家とのお別れは分離の痛みを刺激します。そのため、この分離体験が充分にワークスルーされているかどうかが精神分析の終結を考える時には非常に重要となってきます。

(2)精神発達の二側面

人間の精神発達には妄想分裂ポジション抑うつポジションの2つの側面があります。乳児は死の恐怖を感じますが、それは乳児自身の攻撃性や死の本能が投影同一化され、迫害的不安となって戻ってきているのです。このことは乳児にとっては危機的な状況であるといえます。しかし、これがある程度発達すると抑うつポジションが起動し、愛と憎しみ、良い面と悪い面が統合しはじめます。抑うつポジションが優勢になってくると、今度はサディスティックに攻撃していた対象が実は悪い対象ではなく、良い対象でもあったことに気付き、酷い罪悪感に悩まされます。この罪悪感の為、対象を修復し、償います。このことが結果的に対象に対する愛情となっていきます。

また、外的世界にたいする理解を深め、現実への適応を拡大することによって、抑うつ不安を解消し、弱めていきます。これらが良い対象の内在化となり、適度で、現実的な超自我へと機能していきます。

(3)喪の作業

こうしたことにより、迫害的な不安と抑うつ的な不安が充分に減じていき、緩和されていくことが人間としての成長の条件であると言えるでしょう。このことは精神分析の終結の基準として参考になります。つまり、精神分析の中で喪の作業を行うことが必要であるということです。

さらに、こうした作業とともに自我機能の成長や発達についての課題も検討しなければなりません。喪の作業を通して、迫害的不安と抑うつ的不安をワークすることで、自我は安定性と現実感を増します。これは、空想生活と情緒を自由に体験する能力の増大であると言い換えることができます。しかし、こうしたことがクリアできず、ワークスルーに失敗すると、情緒と空想生活は閉塞していき、洞察を妨げる防衛が立ち上がります。この防衛は躁的防衛であると言えます。

(4)終結後のワーク

喪の作業により、期待していた結果を得ることができたとしても、精神分析の終結には必ず苦痛が伴います。それは離乳という人間の最早期の苦痛が刺激されるからです。そして、時には終結ではなく喪失として体験してしまうこともあるでしょう。この苦痛は精神分析が終結した後、患者が自ら一人でワークしていくことが求められます。これは決して悪いことではなく、そうしたワークがあるからこそ、人間の進歩と成長があるのです。

そして、この終結後のワークがスムーズに進むように、終結の数ヵ月前には患者に知らせておくことが良いでしょう。

(5)終結の基準のまとめ

精神分析では患者の発達の最早期にさかのぼり、迫害的不安と抑うつ的不安のワークスルーを行います。その間、患者は精神分析家を理想化したり、迫害対象として見たりします。この時、単に陽性転移のみで問題の軽減が見られ、終結させてしまうのなら、患者の本質的な変化はないでしょう。そうではなく、陽性転移も陰性転移も全て分析し、ワークスルーしなければなりません。この作業により、全体が統合され、患者の対象関係は変化をきたします。愛と憎しみが同居し、良い対象と悪い対象が統合されます。こうした時、本当の意味で精神分析を終結する条件が揃ったといえるでしょう。

2.精神分析の終結のための基準について(1950)の解説

(1)フロイトの終結の考え

  • 患者がもはや症状に苦しまなくなり、また不安も障害も克服したという時
  • 患者にとって問題となっている病的現象が今後繰り返し起こる可能性を恐れる必要がなくなった程度にまで、抑圧されていたものが意識化され、理解し得なかったものが解明され内的抵抗が除かれたと精神分析家が判断した時

完全な精神分析の終結というのはありえるのか?という問題提起。

(参考:終わりのある分析と終わりのない分析(1937)

(2)ウィニコットの終結の考え

  • 自我の強化
  • 自我の独立
  • 自らの権利で存在していることの確信
  • 本当に痛々しい体験さえも含めたあらゆるものを独自の万能感の支配下におく能力が成長
  • 防衛が弛緩して、より経済的に用いられ展開される
  • もし症状が残っていても病気にとりつかれたという感じがうすれて、自由になったと感じる。
  • 原初的状況に釘づけになって止まっていた成長と情緒的発達が認められる

(3)カール・メニンガーの終結の考え

  • 自分自身との関係
    • 観察部分と行動部分が統合性を高め、より調和し、自我分裂が改善される。
    • より自由になったとの感覚、人生を治療よりも楽しむことができる能力、色々な強迫的活動の停止、そして抑うつ傾向の減少などである。
  • 他者との関係
    • 幅が広くなったり、深みを増したりする。
    • 他者と適切な距離を取ることができ、満足した性生活がおくれるようになる。
  • 物事や概念との関係
    • 破壊的エネルギーを昇華できるようになる。
    • 仕事の仕方が改善され、仕事に興味を持ち、能率が良くなり、個人にとってより重要なものとなる。
    • 仕事と遊びが適切な配分となる。
    • モノに対する執着や所有欲にあまりとらわれなくなる。
  • 治療者との関係
    • 治療者に対しての客観性が増し、魔術的な万能視が薄れ、独立した人間とみなすようになる。
  • その他の基準
    • 不快さに対する耐性があがる。
    • 罪悪感が緩和される。

(4)ドナルド・メルツァーの終結の考え

  • 離乳過程
  • 休暇や休日での分離が見捨てられとして受け取られることはなく、信頼と自己責任の課題として持ちこたえられるようになる。
  • 精神分析過程を美的に、そして知的に味わえるようになる。
  • 誰しもが持つ精神病部分は分裂排除されたままであるが、精神的身体的健康の平衡を保持するためには分裂排除し投影しておくべき部分である。

(参考:D,メルツァー 精神分析過程 第1章 転移の集結(1967)

(5)松木邦裕の終結の考え

  • 患者における
    • 悲哀の作業を含む抑うつポジションのワークスルーの遂行と抑うつポジション機能の維持
    • 転移のワークスルーからなる無意識の空想の意識化とその結果の現実的な識別能力の増大
    • よい全体自己とよい全体対象の双方への信頼の確立
    • 倒錯的でない、楽しむ能力の獲得
    • 自虐的でない、苦痛に持ちこたえる能力の増大
  • 治療者における
    • その精神分析作業での達成の客観的評価および残された課題とその限界の認識を踏まえて終結するという判断ができること
    • その患者との治療の終結、および精神分析作業の意味とあり方についてのみずからの考えが充分に意識化されていること
    • 終結をめぐる逆転移-とりわけ悲哀の作業-のワークスルーをなす心準備があること

(6)セラピーの終わり方

  • 最終セッションの方法
    • まとめる
    • 通常のセラピー
  • フォローアップ面接

(7)現実の精神分析的セラピーの終結とは

  • 精神分析され尽くしての終結というフィクション
  • 中断への否定的見方に対する否定
  • 中断・終結を通して患者からコミュニケートされるもの
  • セラピーの現実的理由による終了
  • 終わったセラピーを悼む
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