精神分析の治療作用の本質

二人の関係

ジェイムス・ストレイチーが1934年に書いた「精神分析の治療作用の本質」という論文の要約と解説です。ストレイチーは変容惹起解釈としてhere and nowの転移解釈を挙げ、それを精神分析の第一の治療機序としました。

1.精神分析の治療作用の本質(1934)の要約

(1)はじめに

ひとのこころの性質と機能を解明したデータを一般仮説や科学的法則で分類した。が、その発見を治療過程自体に細かに当てはめることは躊躇があった。(Ex.実践的に、深い解釈とは何を意味するのか、いつ、どのようにして与えたらよいか)

もし治療過程の仕組みについて理解しているなら、方向性を見失うことが少なくなる、通常の技法手順を変えなくても良くなる。

(2)抵抗分析

神経症症状=受け入れがたい無意識の思考の流れに対して患者のパーソナリティを守ろうとする一方で、無意識の思考の流れをある程度まで満足させる。無意識を意識化することで存在理由がなくなり症状が消えるはず。だが、問題は2つある。

  1. 患者の無意識の流れを発見しようとすると心のある部分(無意識の流れを拒絶するがゆえに症状を形成する必要があった部分)がその過程を妨害し、精神分析家に抵抗する。
  2. 患者が無意識の流れに注意を向け、気が付いたとしても症状が持続した。

抵抗の除去は患者が無意識の流れに「本当に」気が付くためには欠かせない。が、新しい力を使わなければ平衡状態は保たれ、再適応の作業に進めない。新しい力とは、

  1. 患者のもつ回復したいという意志。
  2. 患者に気付きをもたらし得る数多の知的な熟考(Ex,症状の構造や不快な無意識の流れを拒絶している動機を理解してもらう)。

これらの動機は抵抗を放棄させるが、決定的な要因は転移にある。

(3)転移

フロイトはかなり初期から転移には陽性、陰性の2面があると注意を促していた。転移はリビドー現象と見なされており、あらゆる人に多くの充足されていないリビドー衝動が存在し、新しい人との出会いでは、いつでもこれらの衝動がその人物に取り着こうとする。

転移はさまざまな種類がある。リビドー感情が2つのグループに分かれている。

  1. 意識化され得る親しみの感情、情愛。
  2. 無意識化に留まっている純粋に性愛的な感情。

後者の感情があまりに強くなると患者の自我の抑圧を掻き立て、抵抗は強まる。

転移の問題点は、転移が分析され得ることの発見により克服。転移分析は治療過程の中で最も重要な部分を構成している。また、患者がそもそもの症状へのカセクシス(リビドーが注ぎ込まれること)が枯れ、「転移神経症」が現れたことからも転移分析の必要性が明らかになる。

神経症を生じさせていたそもそもの葛藤が精神分析家との関係のなかで再演される。それは、不適切な解決を現実と触れ合っている行動に置き換え、新たな解決法を選択するチャンスとなる。

(4)超自我

超自我は抑圧と抵抗の形成と維持に重要な役割を直接・間接的に果たしている可能性がある。抑圧抵抗(「何も浮かばない」と言う等の意識化を避けようとする心の反応)、転移抵抗(治療者への転移)は、自我に由来するものの、超自我の恐れから生じる。つまり精神分析家が患者に影響を与えるのは、患者の超自我を通してである。

催眠で「主体の自我理想の位置をたやすく手に入れている」ように、精神分析の中でも患者の超自我を手に入れている。患者の超自我についての議論は、

  1. 患者のこころの一部こそが、好ましい変化から全体的な改善を導くもの。
  2. 患者のこころの一部こそが、特に精神分析家からの影響を受けやすい。

の2点に集約できる。

催眠では、催眠家を「寄生性の超自我」という元来の超自我を活動停止させてしまう形で取り入れるが、精神分析では患者の超自我そのものの性質全体の永続的で不可欠な変化を目的としている。

(5)取り入れと投影

個人はエス衝動が向かう対象を絶え間なく取り入れ、投影する。そのため、取り入れられた対象の性格は、外界対象に向けられたエス衝動の性質に依っている

Ex)口唇期的攻撃感情が優位→外界対象に口唇期的な攻撃→その対象を取り入れる→投影が入る→外界対象が口唇期的に攻撃的になる、という悪循環

健常者は陽性の衝動が優勢な性器期に到達するので、外界対象への態度は友好的であり、現実と自我の接触は歪曲の少ないものになる。

(6)神経症的悪循環

もし悪循環を断つ切れ目を作ることができれば、発達過程は正常な方向に進む(Ex,超自我や取り入れられた対象への恐れを和らげる→外界対象に脅かしてくることの少ないイマーゴを投影→取り入れる対象はエス衝動への圧迫において残虐さを減らす→良性の循環が悪性の循環に取って代わる)

悪循環のどこに切れ目が作られるか、どのように成し遂げられるかは、精神分析状況の本質を 考える必要がある。精神分析状況の中の二つの区別として

  1. 精神分析下にある患者は彼の全てのエス衝動を精神分析家に集中しようとする。
  2. 精神分析下にある患者は、彼の超自我の代理として、何らかの形で精神分析家を受け入れる傾向をもつ。

がある。(2)の要因から、患者は精神分析家を「補助超自我」に置く傾向がある。

(7)「補助超自我」としての精神分析家

神経症患者が日常生活において新しい対象と出会うとき、新しい対象に、取り入れられている蒼古的(古びている)な対象を投影しがち=新しい対象は空想対象となる。神経症では、取り入れられた「悪い」対象が優勢になり、「良い」対象よりも多く投影されがち。また、最初は「良い」対象が投影されていても、時間が経つと「悪い」対象が取って代わる傾向がある。とりいれられた「良い」対象でさえも、それが蒼古的で幼児的な基準に沿った「良い」、「悪い」対象に対抗するために維持されているものなので、外界での「良い」空想対象も現実とはかなりずれている。

神経症患者が精神分析の下で新しい対象と接触するようになることの効果としては、最初の瞬間から異なる状況を作り出すところにある。精神分析的環境と精神分析家の振る舞いの特異性に拠り、取り入れられた精神分析家イマーゴが患者の超自我の残り部分とはほぼきちんと分離されている傾向が若干ある。新しい超自我(補助超自我)の最も重要な性質は、自我への助言が現実的で今日的な考えに一貫して基づいていることである。その中でも恐ろしいイマーゴを精神分析家に投影しがち→取り入れられた精神分析家イマーゴは、患者の厳しい超自我の残り部分に完全に組み込まれ、補助超自我は消失してしまう。

→解釈が治療過程の発展を助ける。

(8)解釈

解釈とは「無意識にあるものを意識化させること」であるが、精神分析治療の究極の道具は「変容惹起」解釈である。

補助超自我の力により、精神分析家はある少ない量が意識化されることを許可する。この衝動は精神分析家に向かう。上手くいけば、患者は蒼古的な空想対象と現実の外界対象との間の差異に気づく。解釈は、神経症的悪循環の突破口を作り出したことで、変容を惹起する。同時に患者は精神分析家との関係で再体験されている幼少期の素材に接近できる。変容惹起解釈の過程は、

  1. 第一相:患者は精神分析家に直接向かっているエス・エネルギーのある量を意識化する。
  2. 第二相:患者はエス衝動が蒼古的な空想対象に向けられているものであり、現実対象に向けられているものではないとのことに気づく。

(9)解釈の第一相

解釈の古典的モデルでは、患者は自我の緊張状態に気づかされ、次に抑圧的な要因が働いていることに気づく。そうして超自我への抗議がわき起こされる。それゆえ自我に不安を感じさせるエス衝動の存在に気づかされる。

実際の精神分析臨床では、ある瞬間には獰猛さを露わにした患者の超自我の小さな部分が精神分析家に暴かれ、別の瞬間には自我が縮こまった無防備な状態となり、そうかと思うと敵意を償おうとする修復の試みに対して、注意が向けられる。これらの作業過程の共通点は、本質的に小規模であること。

変容惹起解釈では、各々の解釈はある量のエス・エネルギーの解放を含んでおり、解放された量があまりに大きすぎると、精神分析家が患者の補助超自我として機能できるように保っているこころの平衡のかなり不安定な状態がひっくり返ってしまう。ゆえに精神分析を受けている患者の変化は極めてゆっくり⇔大きな変化は暗示的なものが働いている。

精神分析家がとても多くのエス・エネルギーを患者の意識に一気に持ち込もうと試みると、表面的に影響がないように見えて、

  1. 実際さほど差し迫っていない
  2. エス衝動が差し迫っているにも拘わらず、患者自身の抑圧力があまりに強いため患者の自我が、補助超自我の説得力のある声に耳を傾けることを許さない

場合がある。(2)の場合、隠されているし、顕在性の不安が現れる場合よりもさらに過剰な解釈の投与が影響しているかもしれないので厄介である。ただ、不十分な量を投与した時にも同様な危機が起きることがある。その際には解釈過程の第二相が起こらない。

(10)解釈の第二相

完全な解釈の第二相は患者の現実感覚が重要な役割を担う。この相が成功するか否かは、解放されたエス・エネルギーが意識に現れるその重大な瞬間においての、空想対象と現実の精神分析家を区別する能力に依っているからである。補助超自我としての精神分析家のポジションがとても不安定なものだから、精神分析家は患者によって空想対象にされやすい。現実感覚は不可欠であるが、とても弱い協力者なので、現実感覚を不必要な圧力にさらさせないことが重要となる。そのため、可能な限り患者に現実を差し出さないこと。これらの現実の量は精神分析家が解釈という形式で患者に与える。

(11)解釈と保証

解釈は第一相では不安を「解放する」、第二相では不安を「解消する」。一方で自我にある量のエス・エネルギーを意識化させることは明らかに、厳しい超自我を持つパーソナリティに不安の爆発を招く。

保証は、ここでの文脈では患者に現実対象としてではなく「良い」空想対象としてみなされようと意図する、精神分析家の振る舞いと捉えられる。精神分析家が患者に空想対象としてみなされている限り、第二相は起こらない。

(12)変容惹起解釈の「当面性」

変容惹起解釈の特徴

  1. カセクシスの状態にあるエス衝動にのみ用いることができる。患者のこころの力動的変化は、患者自身に源があるエネルギーの供給操作によって引き起こされる。
  2. 純粋に知識を与える解釈は変容的ではない。あらゆる変容惹起解釈は、感情的に「まさに当面の」ものでなければならない。現実のものとして体験する必要がある。差し迫ったポイントに向けられなければいけない。

(13)「深い」解釈

「深い」解釈とは、患者の現実の経験からは発生的に早く、生活史的には遠いものである素材、強く抑圧されている素材の解釈のこと。その解釈が「安全」かどうかは、解釈の第二相がやり遂げられるかどうかにかかっている。通常の経過では、早期段階は深い素材でない。深い衝動から遠くにあって置き換えられているものだけを最初にとり払わなければならない。

一方で、例外的な症例では、深い衝動が精神分析のかなり早期の段階で切迫してくる。この深い素材を解釈するのなら、第二相が達成されるには十分でない現実感覚となる。だからといって、表面的な解釈、保証をおこなっても、困難を避けられるわけではないので、差し迫ったエス衝動の解釈を行う方が実際にはより安全である。

(14)変容惹起解釈の「特異性」

解釈が変容的なものになるための必要条件は、詳しく具体的でなければならないことである。解釈が最初は曖昧だったとしても、いずれは、患者の抱く空想体系が全て詳しく解明され、解釈されなければならない。すでになされた解釈の反復が必須なのは、細部を満たす必要があるから。

(15)除反応

除反応(外傷的な体験の記憶にまつわる苦痛な体験が、語ることによって情緒発散されること)は解釈がリビドー的な感覚で収まった証拠以上のこととしては、精神分析家に受け取られるべきでない。除反応が本質的な作用力であり続けていると宣言した精神分析家もいるが、これらの見解は、

  1. 感情放散の過程:精神分析に時として付帯するもの。
  2. リビドー満足の過程:精神分析を妨げやすそうな出来事。

という除反応の二つの異なる過程を含んでいると思われる。いずれにせよ外的出来事に主な病因がある場合にのみ除反応の効果は永続的である。

(16)転移外解釈

精神分析家との間でなく、面接外の人物と患者の関係のありようの無意識的意味を伝える解釈のこと。

転移解釈と転移外解釈の間の力動的相違は

  1. 転移外解釈は切迫点において与えられることはなさそうだということ。
  2. 転移外解釈は、現実対象と空想対象の区別をはっきり認識するようになることは容易くないということ。

転移外解釈は、変容惹起解釈の第一相が起こりにくいし、もし起こったとしても第二相が続きにくい。そのため転移解釈より効果が少なく、危険である。転移外解釈の最も深刻な危険としては解釈の第二相を成し遂げること、成し遂げたかどうか知ることの本質的な難しさ、効果の予測できなさ、それまで意識化されてきたエス衝動を精神分析家に投影してしまうことが挙げられる。

一方で、転移外解釈をしたあとの転移合併症(転移が深まっておこるトラブル)に注意を払っておくと、それが転移状況への「供給源」としてふるまうことになり、変容惹起解釈への道を開くことになりうる。転移外解釈は変容性でない、患者のこころの恒常的な変化を含む決定的な結果をもたらすことはできないが、暗黙では転移解釈を与えている時もある。

(17)変容惹起解釈と精神分析家

変容惹起解釈を与えることは患者のこころに深く影響を与えるため最も重要。患者にとってそのような重要な瞬間が、精神分析家自身にどのような影響を与えるか。このことは、精神分析家が解釈の瞬間にあえて患者のエス・エネルギーのある量を故意に呼び起こしていることを振り返ることで理解できるようになる。

(18)感想と疑問

基本的な精神分析技法を振り返り、その言葉に含まれている意味や役割を細分化して書かれていたので、フローチャートのようでとても分かりやすかったように感じる。また、精神分析の様々な技法や学派があっても、人が変化する要素には共通する体験があるのだろうと思うので、治療作用を細やかに見ていくことは心理療法の治療作用を考えることにも繋がる様な気がした。

精神分析家が補助超自我の役割を保つことは空想と現実の乖離を調整していくことに役立つと思う。一方で、患者の生きる現実世界が厳しい超自我を保たせる環境や、発達的に偏りがあるような場合は、環境調整が第一になってくるのか、それとも補助超自我の役割をしつつ解釈を行っていく方針は変わらないのだろうか。

2.精神分析の治療作用の本質(1934)の解説

(1)ストレイチーの生涯

1887年9月26日に出生。家は裕福で、父はナイトの称号を受けている。1905年にケンブリッジ大学に進学し、卒業後は出版社で編集者の仕事をしている。1910年には後に妻であり、精神分析家となっているアリックスと知り合う。1916年には徴兵拒否により、出版社を退職。第1次世界大戦が終了してから、再び出版社に再就職。この頃に精神分析に出会い、精神分析家になることについてジョーンズに相談。ジョーンズは医学部に進学することを勧め、医学部に入学するが続かずに中退。

1920年に結婚し、それを期にフロイトに直接手紙を書き、フロイトに会いにウィーンに行く。そして、ウィーンに滞在しながら、フロイトから精神分析を受けた。この精神分析についてストレイチーは転移解釈、特に陰性の転移解釈の少なさに不満を抱いていたという逸話もある。そして、この精神分析を受けている時に、フロイトから自著の英訳を依頼されている。英国に帰国し、英国精神分析学会のメンバーとなる。その後、フロイトの論文の英訳作業に専念するようになり、それが今のスタンダードエディションとなっている。1967年(80歳)で死去。

(2)変容惹起解釈とは

  • エス衝動を精神分析家に向けることで、転移神経症が形成される。
  • 精神分析家は患者の超自我の位置に「補助的な超自我」として位置づけられる。
  • 転移の文脈でエス衝動を解釈することが変容惹起解釈である。
  • 患者がエス衝動を精神分析家に向けていることに気付く(第1相)
  • 精神分析家が原始的な対象ではなく現実の対象であることに気付く(第2相)
  • 患者はよりマイルドな超自我を取り入れる。

(3)解釈の種類

a.基本

  • 内容解釈
  • 抵抗解釈
  • 防衛解釈
  • 転移解釈

b.葛藤の三角(K,メニンガー)

  • 欲望
  • 不安
  • 防衛

c.中核葛藤(L,ルボルスキー)

  • 過去
  • 現在
  • 今ここ

(4)逆転移

  • 転移と逆転移は一対なので、どちらかだけというのはありえない。
  • 変容惹起解釈には逆転移の視点が抜けている。

(5)解釈以外の治療作用

(6)解釈の実際

  • 初期の転移解釈による情緒的接触とアセスメント
  • 転移解釈以外の頻用
  • 陰性転移の早期解釈
  • 解釈を行うことのリスクより行わないことのリスク
  • 解釈を肯定されるのか否定されるのかではなく、解釈の後の連想に着目

(7)文献

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