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出生記憶、出生外傷、そして不安

生まれることが外傷になる

D,W,ウィニコットの1949年の論文「出生記憶、出生外傷、そして不安」についての要約です。彼は出生外傷を出生体験と捉え直しウィニコット理論の点から整理しています。

1.本論文の目的

出生外傷と不安の関連性を示唆したフロイトの考えを基に、出生体験と出生外傷的体験、出生記憶が、どのようにその後の個人に影響をおよぼすのかについて、ウィニコットの視点で明確にすることです。

2.出生外傷についてのこれまでの研究

(1)フロイトの見解

フロイトは、不安の症候学は出生外傷に関連しているかもしれないと提唱していますが、出生外傷や出生記憶について明らかになっていないために混乱が生じているとウィニコットは述べています。フロイトは「胎児は完璧なまでに自己愛的な生物」であるとして、母親の存在に気づいていない胎児にとって出生は離乳のような分離や対象の喪失という外傷的状況とは違うと述べています。胎児は出生時に不安のみを体験すると考えていました。

グリーンエイカーによれば、フロイトは一種の集合体無意識論によって不安を原型的な体験としての出生に結びつけましたが、ウィニコットはその一方でフロイトは個人的な出生体験もその人の不安のパターンに影響しうると考えていただろうと述べています。

(2)グリーンエイカーの見解

グリーンエイカー(アメリカの精神分析家)は、不安と出生外傷の関係の問題を、乳幼児の行動観察と照らし合わせて再構成することを主張しました。出生による強い感覚刺激が、胎児の大脳を刺激して身体の組織化を促し、自己愛的推進力を生みます。

遺伝的に決定されている不安反応は胎児の中に反射の水準として出現しますが、出生により不安反応へと組織化されます。出生による不安反応と、遺伝的に備わっている不安が合わさることにより乳児の防衛が増強され、その後の在り方に痕跡を残すと考えました。

(3)グラントリー・ディック・リードの見解

グラントリー・ディック・リード(ロンドンの産婦人科医)は、出生時において、母親の恐怖が母親機能を損なわせるとし、母親の恐怖を防いだり克服させたりすることを重要視しました。

3.ウィニコットの3つの主張

(1)環境要因

出生外傷タイプの素材が現れたとしても、出生外傷の解釈だけで治癒はされません。出生外傷だけでなく、その他のあらゆる環境要因(子宮内環境、出生環境、母親の能力、母親が養育機能を維持できる社会的環境など)を予期し、様々な素材を合わせて考えなければ意味がありません。

精神病水準では、出生体験が記憶素材として保持され、精神分析の中に現れることもあります。

(2)甲虫の幻覚を見る少年の症例

早期の精神病の症例を提示しています。彼はウィニコットのコートの中に潜りの身体を登っては出てくる遊びを繰り返しました。そして、蜜を欲しがりました。甲虫は彼の口唇願望の現れと理解できます。

(3)H婦人の症例

治療では睡眠から目覚めた時の不安を扱いました。H婦人はその治療を通じて早期幼児期の外傷的な出来事を思い出しました。

そのしばらく後、H婦人が看護師としてウィニコットのところで働いていたある時期、体が胎児のように硬直する症状を呈しました。そのころ世話をしていた子どもが地下鉄への恐怖を抱えており、婦人はそれを克服させようとしていた時でした。

このことからウィニコットは、H夫人が子どもを通して出生体験を追体験していると解釈しました。H婦人は自身の不安を客観的に理解できるようになり、後にもよい働きが出来るようになったようです。

(4)3段階の出生体験

  1. 正常な出生体験
    • 治療の中で出生の素材が目立って出現することはありません。正常な出生体験は自然な生き方を提供する肯定的な体験だからです。その後の、信頼、連続性の感覚、安定性、安全等の発達にとって好ましい一連の因子の一つとなります。
  2. 普通だがかなり外傷的な出生体験
    • 出生体験が外傷的なものであるときには、様々なその後の外傷的な環境因子と混ざりあって強化されます。治療の中では数々の細部に現れ、その都度解釈されたり扱われたりする必要が出てきます。
  3. 外傷的な出生体験
    • 外傷的な出生体験が強烈だと、その後環境がよくても帳消しにはならず、痕跡を残すことがあります。

4.胎児の不安について

フロイトは「快感原則の彼岸」の中で、不安を「危険の予知とそれに対する準備のような一定の状態と述べました。しかし、回避も理解も出来ない身体的体験の中で、不安の前提条件として抑圧の能力を備えていない未熟な胎児には不安があるとはいえません。

出生前、出生中、出生後の乳児の心理学研究では、不安と出生外傷との間の関係に関する理論は、結論が出ないまま置かれるべきです。

出生外傷について話し合うことで、主要な問題が棚上げされてしまう事もあります。病態水準や状態が悪くない患者の場合、出生外傷の線で解釈をしないほうが良いでしょう。出生体験が精神分析状況に登場する時、患者は極端に幼児的な状況にあると考えられます。

5.出生体験

出生前に情緒発達の始まりがあります。出生の過程では、胎児はある程度の侵襲に対する準備があるため、正常な出生は有益で非外傷的です。しかし、長時間の侵襲に反応し続けなければならない時に、一時的なアイデンティティの喪失や出生記憶として痕跡が残ります。安全でない、望みのないという感覚の基盤になってしまいます。

出生記憶の典型的な特徴は、外的な何かにとらわれていて救いがない感じです。「救いがない感じ」には、いつ終わるのか分からずに体験し続けることの耐えられなさが含まれています。

出生後、乳児は反応の必要がない状態に自然に戻ります。反応しなくてもよい状態になってからのみ自己が存在し始め、環境側が乳児のニーズに応じる反応者となります。

6.精神分析の中での出生外傷の影響

精神分析作業の中で、人には尿路の核、放屁の核、肛門の核、大便の核、皮膚の核、唾液の核、前額の核、呼吸の核などの自我の核の存在を見出すことができます。

それぞれの核はとても強靭であるのに、未熟で脆弱な自我であるというのは、全体的にそれらを自我組織として統合することが脆弱であるということです。

未熟な自我組織を持った乳児が反応できない環境と折り合わねばならない時に、偽りの統合が起こります。早熟な知的発達と知的発達の失敗といえます。知性が、反応せざるを得なかった侵襲を収集し、記憶しようとする結果、早熟な知的発達が起こります。知性が精神を保護しようとしているのです。

迫害の混乱状態が非常に激しく、知性が防衛に失敗する時に、知性の代わりに精神的欠陥が見られ、正常な大脳組織の発達を妨げます。重篤な出生外傷は、妄想症と呼べるような状態を引き起こします。

7.頭部の出生記憶

出生時、頭部は身体の先頭で子宮を拡張させる働きがあります。頭部から正確なタイミングで匍匐前進します。

頭部を帯状に締め付けられる頭痛は、身体的な形で記憶された出生感覚から直接派生したものです。また、騒がしい、頭に血が上る、頭のてっぺんに血が溜った感じ、あたかも血液が逃げ出すかの如くに何かが崩れるような、などの身体感覚や、その他のよく見られる頭の症状は、頭のてっぺんから何かが漏れ出ているというような精神病的妄想と関連があります。精神分析作業において、いつ終わるか断定できない環境的侵襲に妨げられている体験に関連するものとして理解されることがあります。

精神分析では母親の中に頭から再び入る空想や、身体全体を男性性殖器との同一化も見られます。

8.胸部の出生記憶

胸部が締め付けられる強烈な記憶は、願望や倒錯として現れる場合があります。

出生後の泣きは、吸気と怒りの排出であり、反応ではなく生きる目的を持った排出機能です。しかし難産で泣くことへの切り替えが不十分な場合、人は怒りとその表現に関して何らかの混乱をいつも抱いたままになります。反応性の怒りは、自我の確立を妨げます。

出生過程での息苦しさの体験は、呼吸障害、息詰まりの訴え、性的倒錯、願望としての窒息、呼吸をしない神秘的な実践などの原因になります。

宗教の神秘的実践として息を止めるなどの呼吸する必要性を否定する行為は、内的現実と外的現実との区別を否認しようとする企てであり、そこにも、胸の出生記憶が関わっています。

9.出生体験と出生外傷についての総括

出生前から母子関係は始まり、乳児にとっては、自我の連続性を失わずに反応できる出生が望まれます。この論文では正常な出生体験に加えて2段階の外傷的出生を新たに考えました。出生外傷的な体験では、乳児は環境に反応し続けなければならず、存在し続けるという自我の連続性を一時的に失うことがありますが、その後の良好な環境により影響が帳消しになります。そして、一部では、明らかに外傷的と呼ばれるもので、その後の環境が良くても永続的な痕跡を残し、自然な情緒発達が起きないことがあります。

出生後は、母親には、くつろいでいて、乳児と同一化し、自らを捧げ、乳児に積極的に適応できる能力が求められます。

不安の起源を外傷的な出生に関連させるのは間違った理解です。理論的には正常な出生体験に関連させられるだろうが、この論文では、乳児の視点から見た正常な出生体験に関してまだ十分に分かっていないので、関連性があるとはいえません。

出生外傷を理解する鍵は退行です。精神分析の中で、患者は出生に関する空想を報告したり、象徴的な遊びをしたりすることはあります。しかし、それとは別に、精神病患者は早期の乳児期的体験を追体験する傾向にあります。それは、彼らが象徴を活用する空想をしないからです。

出生外傷がその後の迫害のパターンを決定し、不安には間接的に関連します。

では、外傷的出生体験が妄想的素質のパターンとその存在とを決定します。妄想症例の一部において出生が外傷的であり、「存在していること」の妨げになる症例があります。また、出生外傷は心気症のパターンに影響することがあります。

10.精神分析的な技法

患者が一度に一つの事を扱えるような設定を提供します。そして、解釈や追体験のために持ち込んでくるものが何であるかを見極めます。しかし、理解したと感じるもの何でも解釈するのは間違った実践です。

一つの侵襲は一つの反応を要します。晒され、許容できる範囲は一度に一つです。そうした心的活動によって、水際で精神が崩壊することを食い止めます。侵襲が処理できなくなった時期より前の依存状態へ退行する必要があり、患者の情緒的発達を遡ることが出来れば、侵襲は精神分析作業にはっきり示されます。

出生外傷だけの精神分析による治療というようなものはありません。この段階に達するためには、十分な精神分析的理解と力量を示し続ける必要があります。患者が十分に依存し、再び進み始めるときには、抑うつポジションの理解や性器統制に向けての発達、自立を獲得する衝動や対人関係の力動性について正確な知識が必要になります。

11.終わりに

ウィニコットの出生体験や出生外傷についての理論を要約しました。いずれもフロイトのエディプスコンプレックスより以前の乳幼児の心の発達について再定式化しています。つまり、プレエディパルについての理論といえるでしょう。この観点が精神分析にとっては非常に重要となっていきました。

精神分析についてさらに学びたい方は以下のページをご覧ください。

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