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臨床症状のない重篤なクライエントのカウンセリング

生きることの苦しさ

臨床症状はないものの、人生上の強い苦痛を感じている人は多くいます。そうした人のカウンセリングについて述べています。

1.臨床症状と生きにくさの相違

精神科などの医療機関で臨床心理士として働いていた時には、統合失調症やパーソナリティ障害、発達障害、気分障害など、臨床症状としては非常に重たい人が多かったように思います。それに比べると、開業臨床で出会うクライエントさんは臨床症状は比較的少なく、中には全く症状は無い人も多いようです。

しかし、臨床症状は少なかったとしても、病理の重篤度は全く違い、非常に困難な人生を歩んできている人は多くいます。幼少期から抱えている生きる上での苦痛は強く、人生や生活を楽しむことができません。まさに心が死に絶えていると言えるでしょう。死んだように生きている、生きているけど死んでいるとでも言えるかもしれません。

そうした人は苦痛を周りの人には見せないようにして、明るく振舞ったりして誤魔化すことで生きています。仮面を被っているとも言えるかもしれません。そのため、周りの人はその人が悩んでいることすら分からないし、気付かないことも稀ではありません。しかし、当人は多大な苦痛を抱え、そしてどこかに救いを求めています。

こうした方々は臨床症状はそれほどないので、精神科などを受診しません。もし仮に受診したとしても軽く見られて、投薬なしだったり、軽いものしか処方されなかったりします。せいぜい、カウンセリングなどを紹介されることがあるぐらいでしょうか。

なので、精神科で抱えられることはなく、反対に分かってもらえなかった、放り出されてしまったという思いを抱いてしまいます。そして、我々のような開業臨床の場に来られることになります。開業臨床が、こうした方の受け皿になっていく必要はあるだろうし、ニーズは求められているのだろうとは思います。

2.否定的アイデンティティ

こうした生き方レベルで苦痛を抱えている人は自分自身を良いものとみることができません。ほどほどのアイデンティティを作り上げることができないことが多いようです。なので、自分が無いという感覚になります。もしくはカメレオンのように他者に迎合して生きざるをえなくなります。

そうした際に、アダルトチルドレンや発達障害、トラウマ、機能不全家族といった自己診断をし、仮初めのアイデンティティを作ろうとしてしまいます。そうすることによって、不安定ながら自分とはこういう人間だ、というアイデンティティを持つことができるからです。

ただし、それは否定的なアイデンティティであるので、ますます自分自身を良いものとしてみなすことができなくなります。固定的な枠組みの中に自身を押し込めてしまい、そこから良い意味での変化を起こすことがさらに困難になってしまう、という代償を支払わねばなりません。

3.人生の棚卸しとしてのカウンセリング

こうした局面にいる方に、良い面を見つけてあげようとか、自尊心を持てる所を作ろうとか、いわゆるポジティブシンキング的な関わりはほとんどが徒労に終わってしまいます。なぜなら良い面とコントラストのように悪い面を強調してしまうからです。

ですから、反対に、とことん自身の負の生い立ちや苦痛を向き合い、過去の整理をし、苦痛に埋もれた人生を見つめなおすことが必要になってくるでしょう。そこをやり直すことによって、停滞していた成長や発達を一歩進めることができるようになるでしょう。時には数年はかかる作業なるかもしれませんが、それだけの労力を注ぐ価値はあると思います。

もちろん、こうしたことはカウンセラーにも非常な負担と苦悩が抱えてしまうため、教育分析や個人分析、スーパーヴィジョンを受けることは必須といって良いでしょう。

【執筆者情報】

  • 北川 清一郎
  • 資格:臨床心理士、公認心理師、日本精神分析学会認定心理療法士など
  • 所属学会:日本心理臨床学会、日本精神分析学会、日本EMDR学会、日本臨床心理士会、日本公認心理師協会など
  • 役職:日本心理臨床学会代議員、神奈川県臨床心理士会代議員、日本臨床心理士会委員などを歴任
  • 経歴:精神科や心療内科、教育センター、児童相談所、就労支援施設などでの臨床経験は約20年になる。また、臨床心理系の大学などでの非常勤講師を歴任。
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