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カウンセリングにおいて否定的な関係になることをめぐって

 カウンセリングではカウンセラーとクライエントが時には非常に険悪で、緊迫した、否定的な関係性が展開することがあります。もしくは、一見表面的には良性の関係があるように見えて、裏に疑心暗鬼などの否定的な関係が隠されていることもあります。こうしたことが起こる理由やその取扱いについて書いていきます。

目次

  1. 悪い関係の展開
  2. カウンセラーショッピング
  3. 良い関係に隠された悪い関係
  4. 悪い関係を直面する
  5. 試し行動と幼少期の外傷体験
  6. 悪い関係を生き残る

1.悪い関係の展開

 比較的、軽症例であれば、ゆるやかな良性の関係をカウンセリングの初期から築けることが多いし、それが治療を進展させることでできるでしょう。しかし、基本的信頼関係がそもそも損傷している重症例は、信頼関係を作ることに不安と困難さがあるので、悪い関係が最初から展開することがあります。

 その悪い関係を繋げつつ、その状況をカウンセラーとクライエントの両者が生き残ることで、本当の信頼関係が出来ていきます。仮初めの、もしくは欺瞞に満ちた表面的な良い関係は、なんら情緒的交流にはなりえないでしょう。

 世の中は広いので、天性の才能で、誰であってもすぐに信頼関係を作れる天才はいるかもしれませんが、我々のような凡人のカウンセラーはそうではなく、こうした悪い関係をどう生き残るのかで関わり続けざるをえないと思われます。

2.カウンセラーショッピング

 本当にたくさんの機関を巡り巡って、私のところに辿り着くというクライエントは多いです。それが、医療機関や教育相談機関などもありますし、臨床心理士、非臨床心理士、無資格カウンセラーから、果ては占いやスピリチュアルカウンセラーなどを巡ってからようやく来られるクライエントもいたりします。

 理由は様々ですが、信用できなかったという方もいれば、話をきちんと聞いてもらえなかった、話は聞いてもらえたが病気は治らなかった、など多種多様です。おそらく、それら機関やカウンセラーが全てダメだったわけではなく、部分的に満たされる所もあったのかもしれません。

 しかし、どこか本質的なニードを掴み損ねていたのかもしれません。そして、そうした方々の多くは、そもそもの信頼関係を構築することに困難さがあり、どういう人と会っても否定的な関係になってしまうという苦しみを抱えているようです。

3.良い関係に隠された悪い関係

 この否定的関係は何も険悪さや緊張感があるということだけではなく、表面的にはニコニコし、目の前のカウンセラーに良いことを言い、反対に過去のカウンセラーを否定する、というケースもあります。一見すると良性の関係ができているように見えますが、しかし、実は裏には疑惑や疑念を抱えています。

 そうしたことを理解し損ねて目に見える良性の関係だけに着目すると、クライエントの本質的な苦痛を見て見ぬふりをすることになりますし、表面的で欺瞞に満ちた関係性に陥ってしまいます。

 そうした時、多くのクライエントは失望し、自然と来なくなるか、「良くなりました、ありがとうございました」などと言い、カウンセリングは中断となります。そして、再び他のところのカウンセラーへ行き、同様のことが反復されます。

 おそらくクライエントとカウンセラーの両者が否定的関係に入ることを恐れ、それを忌避し、良い関係でいることに専心することで、部分的にそれは成功するものの、結果的には変わらない反復になってしまいます。

 特にスプリッティングの機制が強いと、目の前のカウンセラーを良い人、過去のカウンセラーを悪い人と仕立て上げてしまいます。そして、それに気付けないカウンセラーはそれが事実であると誤認し、そのスプリッティングに巻き込まれ、助長させてしまいます。

 こうしたことはカウンセラーが一人で気付くということはなかなか難しいため、教育分析や個人分析スーパービジョンを受けることによって見えて来ることもあります。

4.悪い関係を直面する

 こうした時、大切なのは目の前のクライエントと良性の関係を構築したり、維持することではなく、敢えてその欺瞞に目を向け、否定的な情緒を取り扱い、クライエントの本質的なニードに触れていき、手応えのある関係性になるように専心することが、カウンセリングであると言えるでしょう。

 こうしたこと故に、否定的な関係性にも着目し、それを積極的に取り扱い、時に、今ここでの関係性が不安定で、怒りにまみえるようなことになったとしても、それを引き受け、耐えて、何が起こっているのかを考え続ける姿勢がカウンセラーの仕事となります。

 おそらく、いわゆる重症例と言われるクライエントとのカウンセリングを行う際には、こうした仕事は避けては通れません。信頼関係ができて当然とするのは、実は軽症例、健康な人に限った非常に特殊な一部に過ぎないということを知る必要があります。

 精神科などの医療機関のカウンセラーは、おそらくこうした重症例の方とのカウンセリングは割とよくある経験だと思います。しかし、そうした経験がないと、なかなか分かりにくい、気付けないことは多いようです。なので、カウンセラーの訓練には精神科での研修は必須と私は考えています。

5.試し行動と幼少期の外傷体験

 カウンセラーとクライエントとの否定的な関係の中に試し行動というのが時としてみられることがあります。こうむった外傷が幼少期になればなるほどいわゆる試し行動は頻度も強度も大きくなります。試し行動は傷付きを反復しないようにする防衛であると同時に、信頼を築きたいというニードの表れであると思います。

 しかし、その行為が故に大人や支援者の怒りや無力感を刺激し、否定的な情緒を惹起させてしまうことが多いです。そして、その為、子どものニードに気付けず、もしくは気づいていても応答できず、過去の外傷と同じような反復をしてしまいます。つまり、大人から子どもに見捨てるや攻撃するという行為になってしまいやすいのです。

6.悪い関係を生き残る

 悪い関係になることを過度に恐れたり、否定したりするのではなく、その関係の中で生き残ることがカウンセラーの仕事であり、そこに手応えある創造的な結びつきが産まれることがあると思います。

 本当の意味での信頼関係とは、決して単に良性の関係ではなく、否定的なことを直接言い、それを逃げずに受け止め、理解し、この二人の関係の中で起こっている事を共に観察し、体験する、というそうしたレベルのことを含めているのだろうとは思います。そして、それには終わりがなく、プロセスの進展と膠着が繰り返されます。

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公開:2018-12-29 更新:2019-03-15
論考  北川 清一郎

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