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公認心理師のための精神分析入門

 祖父江典人(著)「公認心理師のための精神分析入門」誠信書房 2019年外部リンクを著者の先生から献本されたのですが、なかなか読む時間がなく、後回しになっていましたが、ようやく読むことができました。読んだ感想を書いてみたいと思います。

祖父江典人(著)「公認心理師のための精神分析入門」誠信書房 2019年

目次

  1. 公認心理師のためではなく
  2. 人間の本性としての破壊性
  3. 破壊性と対象希求
  4. セラピストの内的マネジメント
  5. 破壊性を敢えて取り上げる局面
  6. ゆるい構造の中での支援
  7. 高頻度の面接設定を設える
  8. 終わりに

1.公認心理師のためではなく

 本のタイトルには「公認心理師のための」と銘打っていますが、おそらく公認心理師の資格試験などには絶対に出てこないようなことばかりなので、受験勉強をするために読むのはやめた方が良いでしょう。

 しかし、大学院を出て、公認心理師の資格を取って、現場に出た時、特に重篤なクライエントさんと出会い、面接を行い、支援していく上で、非常に重要なヒントや知恵が本書からは得られるかもしれません。。

2.人間の本性としての破壊性

 本書を簡単にレビューすると、フロイトから始まり、クライン、ウィニコット、ビオンを経て、現代クライン派のベディ・ジョセフへと至る精神分析の理論を読み解いています。フロイトはご存知の通り、性欲動というものを人間の主軸に置き、精神分析によって解明していきました。その後、クラインは攻撃性というものを主に取り上げ、その取扱いが精神分析の根幹であるとしました。羨望などはその良い例でしょう。攻撃性は破壊することが目的であり、その原動力には怒りや憎しみがあるというのがこれまでの精神分析の考え方でした。

 しかし、本書ではベディ・ジョセフの理論を引用しながら、重篤なクライエントには攻撃性や破壊性に快楽が伴っており、それが他者や自己に向かっていくことがあるとしています。本書では「邪な欲望」と表現されていますが、こうしたことが精神病理の主軸になっており、だからこそ、事態が深刻になってしまうと述べています。

3.破壊性と対象希求

 現代の精神分析では特にこうした破壊性といったことを積極的に取り上げることが多いのですが、それは面接を週複数回ほど行う高頻度の設定であるからこそ、可能となります。つまり、週1回やそれ以下の頻度による面接設定で、こうした破壊性ばかりを扱うと行動化や悪化を招いてしまうことになります。

 本書ではこうした時、むしろ破壊性の裏に隠された対象希求性や良い自己といったことを取り上げることにより、クライエントの自己イメージを回復させることができ、結果的に改善につながるだろうと主張しています。破壊性が全面的に展開しているときに、その破壊性を指摘、解釈しても意味がなく、分裂排除された良い部分を積極的に扱うことが治療的であるということです。

 しかし、それは単に良い部分を見ましょう、肯定的な思考に変えましょう、といった安直なポジティブシンキングではありません。

4.セラピストの内的マネジメント

 クライエントの破壊性が全面的に展開している時、セラピストは何を手掛かりにして、クライエントの背後にある良い自己にふれていくのでしょうか。それは内的マネジメントとということになります。本書では内的マネジメントについて、かなりの分量が割かれ、細かく解説されています。内的マネジメントとは、マネ・カイルの正常な逆転移の理論から発展した、昇華された陽性逆転移をセラピストは維持することと、クライエントの内的な良い自己とのつながりを維持することです。

 その内的マネジメントを表出技法、解釈技法、関係性技法、逆転移技法に分けて、その活用法について解説しています。こうしたことを通して、クライエントの悪い自己像が多少なりとも修復され、良い自己像が育っていくことが目論まれています。

 そして、その良い自己像を基盤として、ようやくクライエントの中にある邪な欲望が渦巻く、悪い自己とつながり、その修復のプロセスに入っていきます。ただ、この悪い自己がすっかりとなくなるということはおそらくは無いでしょう。現実的には悪い自己の中にある邪な欲望が多少マシな解消方法を見出し、そこそこ健全な方向に向き変えることができることを目指すのが妥当かもしれません。これを敢えて言葉に直すと、昇華といえるかもしれません。

5.破壊性を敢えて取り上げる局面

 ただ、私は部分的に違う考えを持っており、敢えて悪い自己の破壊性や邪な欲望を先に扱う必要がある局面も存在すると考えています。それは対象の違いであるかもしれませんが、悪い側面が行動化や面接の中断に向かっている時です。こうした時にはむしろ悪い部分がなかったかのように面接プロセスが進展し、一見穏やかな雰囲気が醸し出されてしたりします。これは破壊性が取り上げられず、共謀して否認している状況であると理解できます。

 これらを放置すると、早晩、中断や行動化に至りますし、そうした経験はほとんどのセラピストにあるのではないでしょうか。それを防ぎ、治療の基盤に戻し、再度の動機づけにつなげるのは、悪い側面についての転移解釈の仕事であると考えます。

 さまざまな事例を見ていると、こうした部分が取り扱い損ねているため、一見セラピストには了解不能な中断や行動化が起こっていることがしばしばあります。

6.ゆるい構造の中での支援

 最近では定期的な面接を持つことができない臨床現場が増えています。1回の面接時間が30分であったりするようです。頻度も毎週の面接はできず、隔週や月1回といったことはざらのようです。グループでの支援やアウトリーチといったこれまでの心理臨床ではなかったような構造のなかで支援をしていくことが求められています。

 本書で紹介されているようないわゆる精神分析の応用といった方法はこうした支援のゆるい構造の中で如何に精神分析的な方法を適用し、表層的な面接にならないようにする工夫から生まれたものいえるでしょう。そのため、本書で紹介されている方法論は汎用性が高いといえます。

7.高頻度の面接設定を設える

 一方で、本書は1回50分で週複数回の設定を全く放棄し、非現実的なものであるとしているようにも私には思えます。

 私は、こうしたゆるい構造の中でセラピストとして可能な努力として、高頻度の面接設定をどのように作っていくのか、という方向性もあるのではないかと考えます。昔、乾先生が治療ゼロ期といったことを論じていたことと似通っているかもしれません。スタッフの理解を得て、治療効果を上げ、信用を勝ち取り、高頻度の面接設定が有用であると周囲に分かってもらい、そうした実践を行える場を設えることもセラピストの仕事であると思います。

8.終わりに

 本書は公認心理師のための、と書いていますが、現場にいる全てのセラピストに有用であると思うと同時に、資格を取ったばかりの公認心理師にこうしたことができるのかという疑問があります。やや難易度の高い技法であるように思えます。

 それでも、こうしたクライエントの悪い自己と良い自己という側面と、セラピストの内的マネジメントという観点を少し意識して支援を行うと、多少なりともより豊かで効果のある支援に変形しているのではないかとは考えます。

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公開:2020-07-21 更新:2020-07-21
読書  北川 清一郎

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