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自閉症という物語り

 自閉症スペクトラムの神経生物学的な解明は日々進展と深化しているよう。それにより、合理的な配慮をいかにするのか、支援技術をどのように適応するのかが、目覚ましく進歩している。その恩恵は充分ではないかもしれないが、一昔前にとは比べものにならないぐらいになっている。

 一方で、自閉スペクトラムのある種、無機質で奥行きの乏しい、物語が織り成されない二次元的平面な心のあり方との関わりはセラピストにある種の無機質な手の届き難い逆転移を惹起させることもある。

 その神経生物学的な知見は素晴らしい反面、無機質な逆転移に彩りをもたらすものとはなりがたく、無機質さの否認として使用されることもある。

 自閉スペクトラムの物語れない物語をセラピストが心の中でとらまえ、物語化することによる照らし返しが、自閉スペクトラムにある種の物語の萌芽を誕生させるのだろう。

 その物語によって世界の現象に辻褄を見出すことになる。そうはいっても、それはいつも肯定的で心地の良いものとは限らない。世界は残酷、とは誰かが言ったが、時に悪意に満ち、理不尽で、殺伐とし、努力が実らないことは多々あり、苦しさと挫折は常に隣り合わせ。

 その哀しみはとても深い。その哀しみを抱えて生きていくことは苦悩に満ちているので、常に後戻りの甘い欲望と背中合わせになっている。そうした苦悩を引き受けていくのはなかなか大変なものである。

 これは自閉スペクトラムに限った話ではないが、自閉スペクトラムでは更に強く体験することになるのは容易に想像できる。それらを含み込んだ物語化は苦しいが人生の成熟とも言え、根源的に求めていることでもあるだろうと僕は考える。

論考   2016/06/14   北川 清一郎

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