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早期不安に照らしてみたエディプス・コンプレックス

乳児の苦痛

メラニー・クラインの1945年の論文「早期不安に照らしてみたエディプス・コンプレックス」についての要約です。2つの症例を通して、早期の根源的な不安とエディプス・コンプレックスとの関連について論じられています。

本論文は愛、罪そして償い(メラニー・クライン著作集3)に収録されています。

1.論文の背景

クラインのエディプス・コンプレックスに関する最後の論文。「エディプス葛藤の早期段階(1928)」、「児童の精神分析(1932)」に連なる論文である。精神機能の基礎としての愛と憎しみの相互作用と抑うつポジションによって、幼児期早期(フロイトが発見したエディプス状況以前)のエディプス・コンプレックスを説明している。

2.リチャードの精神分析

(1)リチャードの病歴

リチャードは10歳の男児である。登校できず、他の子どもをひどく恐れる、才能や興味が制限されている、健康に過度にこだわる、などの抑うつ状態であった。戦争の勃発で悪化し、疎開先でクラインの精神分析を受ける。全体は1つの帝国、各分画は国々を表す一連の模様画を描く。帝国画は攻撃され侵略を受けている母親の身体を表現しており、父親、兄、リチャードが登場する。

(2)エディプスの発達を妨げる幼児期早期の不安

クラインがロンドン(空襲で危険な場所)に行くことによる10日間の精神分析の中断によって、母親が体内に父親の危険なペニスをもち込んでいるという空想が活性化した。両親の性行為はリチャード自身の口愛的サディズムにより危険なものとなっており、リチャードの性器愛欲求は抑圧されている状態であった。

(3)幼児期早期のいくつかの防衛

母親像をよい乳房をもった母親と悪い乳房をもった母親への分裂させることによって、リチャードは母親への愛情と怒りのアンビヴァレンスを処理している。精神分析状況においては、現実の母親が前者、クラインが後者を表していた。よい対象への思い遣りの気持ち、愛の感情と空想の中でなされた傷害を償わずにはおれない気持ちが生じるも、それは欲求不満に陥らせることの決してない乳房であった。お互いに純粋な愛情で結ばれた母親と子どもという理想化に結びついたものに留まっていた。

(4)エディプス欲求に対する抑圧の弱まり

クラインによる不安状況の精神分析によって、リチャードは自らの攻撃性を処理できるという確信を持てるようになり、性器愛欲求をより強烈に体験できるようになる。母親の占有をめぐって父親や兄と闘い始め、その中で去勢不安が台頭してくる。リチャードは、父親と兄を母親との間で作った赤ん坊に変形させることによってその罪悪感を処理している。

(5)内在化された両親にまつわる不安

外界の対象と内界の対象はいつも関連し合っている。悪い母親や悪い父親という迫害者の恐怖が増大すると、リチャードは愛する内的対象を破壊と死の危険から護ってやることができないと感じるし、対象の死は彼自身の生命の終わりを意味している(うつ病者の基本的不安)。

(6)リチャードの精神分析のまとめ

愛する対象はまた憎しみの対象でもあることにリチャードが直面できるようになったとき、悪い側面はよい側面によって和らげられ、より安定したよい母親が現れることでリチャードの抑うつは消失した。男性性器の創造的・生産的側面が前面に出てくることによって(性器愛的態勢)、死や死の不安と闘うにあたって最も重要な手段である再生やよい赤ん坊たちの創造が可能になった。

2.リタの精神分析

(1)リタの病歴

リタは2歳9ヶ月の女児である。不安、こらえ性のなさ、沈み込み、強迫儀式、善良さと行儀の悪さの交代、気まぐれ食いがあった。両親の性交を繰り返し目撃しており、2歳のときの弟の誕生を契機に神経症に。生後1年目の終わりまで父親よりも母親を好んだ。生後2年目の始めになると父親をはっきりと好むようになり、母親には嫉妬を向ける。18ヵ月目、母親との関係はアンビヴァレントなものになり、父親を嫌悪するようになった。

(2)幼児期早期の両親との関係

最初の母親との満足できる関係を安定させることができなかったことで、父親への性器愛的態勢からの退行が生じた。外的要因としての両親の性交の目撃と母親の妊娠、内的要因としての緊張に対する閾値の低さが見られた。

(3)分析材料から得られたいくつかの例

原光景を表現している積木のプレイ、ペニス羨望を表している旅行のプレイ、去勢不安を示している就眠儀式が展開した。

(4)超自我の発達

リタの不安と罪悪感は超自我の発達と関連している。超自我の始まりは人生の最初の2~3ヶ月まで遡ることができる。

(5)エディプス発達を阻害する迫害不安と抑うつ不安

母親の死に関してのリタの抑うつ不安は、彼女の身体に加えられる母親の報復的攻撃と関連した迫害恐怖と結びついていた。そうした攻撃は、体内に潜むあらゆる貴重なもの(子どもたち・よい母親・よい父親など)に対する危険とも感じられる。こうした愛する対象を内・外の迫害者から護ることができないことが女児の最も基本的な不安状況の一部となっている。

3.両性におけるエディプス・コンプレックスの早期段階

エディプス・コンプレックスは人生の初年度に始まり、最初は両性とも同じ線上の発達をする。母親の乳房との関係はあらゆる情緒的、性的発達を左右する必須要因の一つである。乳房とペニスは幼児の口愛的欲求の原初的対象。これらの部分対象は、幼児の心の中では最初から父母と結びついており、両親との関係はそこに集結していく。

取り入れられた対象は超自我となり、投影と取れ入れの相互作用によって超自我は発達していく。幼児的抑うつ感の中核、つまりは憎しみと攻撃の結果として愛する対象を喪失する不安は、最初から対象関係やエディプス・コンプレックスの中に入り込んでいる。

サディスティックな空想の中で母親を損ない破壊したペニスは、償いの空想の中では母親を回復させ癒やす手段になる。

4.エディプス・コンプレックスの古典的概念とのいくつかの比較

リビドーの発達段階は人生の最早期から重なり合っている。口愛的リビドーの優位のもとで、性器愛傾向は尿道愛や肛門愛の欲求や空想と混じり合っている。超自我は口愛期に生じ、最初に取り入れられた対象である母親の乳房がその礎石となる。超自我の最も重要な特質のいくつかは、それが愛してくれる保護的なものであれ破壊的で貪食的なものであれ、幼児期早期の超自我のもつ母性的要素から生じたものである。

罪悪感は乳房を貪食したいという口愛的サディズムに始まる。罪悪感はエディプス・コンプレックスが終息に近づいたときに現れてくるものではなく、最初からエディプス過程に関係している。去勢恐怖は男性においてエディプス・コンプレックスの抑圧を左右する唯一の要因ではない。エディプス状況がその力を失うのは、男児が愛や罪の感情によって内的および外的な人物として父親を保存せざるを得なくなるからでもある。

讃美され望まれた父親のペニスを母親が体内にもっているという女児の無意識的理論こそが、フロイトが女児の男根的母親との関係として記載した多くの現象(女児の男根期)の土台を成している。

5.議論

前半の臨床素材の提示と後半の理論的部分とは印象が異なることが明らかである。前半部分の方がクライン自身の臨床経験が生き生きと描かれているように感じられる。

内在化、外界、内界、取り入れ、投影といった言葉が何を意味しているかは具体的には不明である。何の内と外について語っているのかが混乱してしまうだろう。

理想化されたよい対象から、悪い対象と結びついたより安定したよい対象へ変化する契機とは何かは明確には指示されていなかった。

精神分析の仕事とは、よい対象、対象のよい側面を強めることであるとクラインは考えているのだろうか。不安状況の精神分析によって攻撃性を処理できるようになるのは転移解釈を通して、ワークスルーが達成される。

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