対象関係論の実践-心理療法に開かれた地平-
祖父江典人(著)「対象関係論の実践-心理療法に開かれた地平-」新曜社 2008年を読んだ感想です。
1.カウンセラーとしての視座
本書は、著者のこれまでに発表した論文をまとめた論文集です。そして、これらが博士論文ともなっています。
精神分析や対象関係論は精神科医による実践が多いように思われていますが、カウンセラーの観点から、特に精神科臨床の中でどのように実践するのかを焦点にして論じられています。
2.日常臨床における精神分析
精神分析は週複数回のセッションをもつことが求められるし、それがスタンダードではあります。しかし、日本の中でそうした設定はなかなか難しいところがあります。そのため週1回の設定でカウンセリングを実施できたら良い方で、ケースによってはそれも難しい時があったりもします。
そのような状況の中で、週1回やそれ以下の頻度という設定であっても対象関係論や精神分析をどのように実践するのかを明確に打ち出しているのが本書であり、そうした意味においてカウンセラーにとっては取っ付きやすいものであると思われます。
3.解釈のターゲット
また、著者はクライン派に属するカウンセラーであるようです。クライン派精神分析といえば攻撃性や破壊性を解釈の中心に添えるのがスタンダードですが、著者はその裏側にある哀しみと痛みに眼差しを向ける姿勢を取っており、その意味で独立学派に近いものを感じさせます。
解釈もその哀しみや痛みに向けられたものが多く、クライエントさんが痛みを抱えれるように援助するのが、著者の姿勢であると思われます。
4.抑うつ的痛みを受け入れて
本書を読んでいた時期は私にとっても、現実がなかなか上手く行かず、時として被害的になったり、絶望的になったりして、いわゆるPSポジションになっていたように思います。そこには本書で示されているような哀しみや痛みを心に据え置くことができていなかったのかもしれません。しかし、本書を読みつつ、その裏にある痛みを私自身は目を向けることができるようになり、ある意味では少なからず救われたように思います。
この痛みを感じるよりも被害的になっていたほうがある意味では楽であるのかもしれませんが、そこには自分を無くしてしまう苦しさもあるのでしょう。それを体験させてくれるような書籍でした。